2012/04/27

目の錯覚を建築に埋め込む タトアーキテクツの島田陽氏

『山崎町の家』 撮影:鈴木研一
 「外から見た印象どおりの建物だと面白くない」。島田氏の建築は、騙し絵に似た『目の錯覚』のような印象を与える。「昔から人の『認識』に興味があり、常に多義性を意識して設計している。見る人の意識を操作することで設計が多様になる」。事務所名である「タトアーキテクツ」の「タト」も、横書きにすれば「外」に見える。


 そういった「意識の操作」は、見た目の奇抜さや遊び心だけではない。農村地帯に建つ『山崎町の住居』は温室のような外観。「周辺環境にポジティブなフィードバックを与える建築をつくりたい」というように、周辺の農村と近くの新興住宅地をつなぐ存在となることを目指したという。
 このほかにも、滋賀県の『比叡平の住居』では、2つの住居棟とアトリエ棟を手掛けたが、規模の大きい住居棟を平屋の小屋のプロポーションに似せることで、周辺に必要以上に威圧感を与えないよう配慮した。「建築家の作品は、ある強さを志向するあまり、コンセプトを表現するための設計に走りがちだ。クライアントの要望を取りこぼさないために、いろいろな見え方をするなどの認識の操作を用いている」と話す。

◇少年期から立体造形にこだわる

 少年期から立体造形に興味を持っていたという。京都市立芸術大学に進学、1回生の時にダンボール製のフラードームのような休憩室を共同製作。2回生時の文化祭では、トンネルとドームを複合したエントランス兼インフォメーション施設を作成し、音と光で演出した。「体験することで『ハレとケ』を切り替えられるような空間を目指した。ものを作るということは、人の意識に働き掛けることができる。その楽しさを知った。その時はまだ空間体験装置を作ったつもりだったが、次第に『建築』という仕事を意識していくようになった」と振り返る。

 院生時には2階建ての「ほとんど建築のような模擬店」を製作したが、これを気に入った同級生の親が自邸の設計を依頼。図らずして初仕事が舞い込んできた。「どうやっていいか分からず、知り合いの工務店の協力を得て完成させた。もともと東京の設計事務所に入ることが決まっていた。まずその一軒を終わらせてからと思い、少し休ませてもらっていたが、その作品が建築雑誌に掲載されて、また依頼を受けてと、自然と独立した形になった」という。

◇浮いている家


『六甲の住居』 撮影:鈴木研一

 1999年に正式に事務所を設立した後、住宅設計を中心に建築設計を手掛けてきた。最近は意味や認識の操作から、「即物的」な造り方に興味が出てきているという。最新作である『六甲の住居』は、1階部分をガラス張りとし、2階部分は小さな窓の開口部があり、一見、家が浮いているようにも見える。「クライアントの所有物が生き生きとするような空間づくりを目指した。1階室内にあるクライアントの所有物と部屋の中から見える素晴らしい風景と、よく隠しがちな擁壁、ブロック塀などがすべて同じ強度で見えるように考えて設計した」と、その意図を語る。
 学生時代に阪神・淡路大震災を経験した。昨年京都で開催した建築展「SPACE OURSELVES」では「版築」を用いたセルフビルドできる作品を発表。東日本大震災の被災地に対して建築にできることの一つとして提案した。「1年前に現地を訪れたが、その時は積極的に提案することに気後れを感じた」と話す一方で「いまは建築家が人々に期待されるような時代になっていない」と現状を分析。「建築家の考えや能力が一般の方にも伝わるような発信をしていかなければならない」と力を込める。
 (しまだ・よう) 1997年京都市立芸術大大学院修了、99年タトアーキテクツ/島田陽建築設計事務所設立。同年に第1回ELLE DECO大賞に輝き、2004年に第1回木質建築空間デザインコンテスト優秀賞、10年には、かんでん住まいの設計コンテスト優秀賞を受賞している。神戸市出身、39歳。

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