東京都港区に建設中の日本ガス協会ビル建替計画は、設計・施工を担当する清水建設にとって、2次元CADを一切使わず、3次元CADだけでBIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)を実現しようと試みるトライアル現場だ。協力会社からの3次元データ提供によって、「完全3次元施工図」の運用が成立した。現場で構築したデータ共有のルールを、社内のBIM標準に発展させる目的もあり、今後のBIMを占う重点プロジェクトに位置付けている。
◇完全3次元施工図で運用
「施工図のあり方が大きく変わった」とは東京支店生産総合センター情報化施工図グループの吉原裕之主査。3次元施工図に取り組む現場はほかにもあるが、設計の修正には3次元モデルから抽出した2次元図面を2次元CADを使って対応しているのが現況。3次元データの連携に必要な細かな作図表現が確立していないほか、現場CADオペレーターのスキル不足もあり、修正まで含めた完全3次元施工図の運用は今回が初めてとなった。
吉原氏は「せっかく3次元モデルを使うのに、データ修正を2次元ツールで行うやり方ではBIMの効果が半減してしまう。一貫して3次元ツールを使うことで、施工図の修正時間は従来に比べ最大で約2分の1に短縮している」と説明する。
施工図の精度は担当者の技量に左右される部分があったが、3次元化によって図面間の整合も保証される。現場では3次元モデルから2次元図面を切り出して使うため、必要な情報だけを抽出したシンプルな図面を出力できる利点も生まれた。設備工事の協力会社が自主的に3次元データを提供し、完全3次元施工図が成立したことが下支えしている。
◇データ共有に標準ルール
設計段階では構造解析データから構造モデルをつくり、そこに意匠と設備のモデルを合成した。この統合モデルを使って干渉部分のチェックを行い、加工修正して施工図に展開した。情報化施工図グループの上ノ町圭一氏は「施工図の作成には通常の3倍もの時間がかかった。すべて3次元ツールで処理するには、データ共有の細かなルール設定まで構築する必要があった」と明かす。単に3次元化に取り組むだけでなく、並行して現場をモチーフに、3次元施工図のテンプレート(図面作成のひな形)の整備を行ったためだ。
生産技術本部生産計画技術部の田淵統グループ長は「BIMの進展には社内ルールの確立が不可欠。この現場を足がかりに、BIM標準を確立していきたい。それにはいくつかの現場実績が必要になり、完成までにはまだ時間はかかる。当社はBIMが何に使えるかについては把握できており、今後どう使っていくかの新たなステージに入った」と強調する。
◇ものづくりのイメージを共有
BIM最大の効果は「見える化による情報伝達の有効性」と、三澤正俊東京支店副支店長が言い切るように、現場では迅速な施主との合意形成が実現している。屋上部分は最新の太陽光発電装置やガス設備機器を配置し、見学ルートも組み入れる予定。東日本大震災後の本体着工であったため、一部の機器の変更に伴う対応が余儀なくされた。
完全3次元施工図を導入したことが下支えし、変更部分を迅速にモデル化でき、それが手戻りなく、施主の了解を得る原動力になった。安全な点検ルートの確保も含め効率よく施主合意が成立した。「プロジェクト関係者が多岐にわたるケースでは特に合意形成の手段としてBIMの活用効果は大きい」(三澤副支店長)。
現場では4月末に躯体工事が完了する予定だ。鉄骨の建て方は3次元モデルを使った施工シミュレーションを駆使し、作業の効率化を追求した。現場を仕切る藤倉康容工事長は、こう強調する。「施主が分かりやすいとBIMを好意的に受け止めてくれるように、現場のわれわれも本来やるべき部分に力を集中できる利点を強く感じている。現場関係者はものづくりのイメージを共有でき、それが運営面での安心感につながっている」
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日本ガス協会ビル建替計画 ▽建設地=東京都港区虎ノ門1-15-12▽施主=日本ガス協会▽設計・施工=清水建設▽工期=2011年1月-12年10月▽規模=S・RC・SRC造地下1階地上9階建て塔屋1層延べ7,477㎡▽主な使用ソフト=意匠は「ArchiCAD」(グラフィソフト)、設備は「Rebro」(NYKシステムズ)、構造は「Revit Structure」(オートデスク)、施工図は「Revit Architecture」(同)など。
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