2012/04/08

平泉町の中尊寺本堂を耐震補強 大林組の木造建築向け工法(下)

工法の材料
 中尊寺本堂の工事が始まったのは、2011年9月。既存の土壁などをスーパー板壁に置き換えることで、意匠性を損なうことなく、地震に強い建物に改修する。本堂は手前半分が外陣、奥半分が内陣と部屋で構成する。柱の間隔は2間(3・6m)、天井高さは一番高い内陣部で4・5m。その柱間にスーパー板壁をはめ込み、特殊ビスを使って固定する。内陣は床から天井までの壁を、外陣は小壁として上半分だけの壁を使い分けるなどによって、従来と同様の開口部を確保した。中尊寺作業所の宝福智所長は「建物の外で組み立てたスーパー板壁を内部に持ち込み、人力で柱間に設置した」と説明する。

◇つけ台のような美しい板壁

 大部分のスーパー板壁は、従来の壁と同様に上から漆喰を塗るが、内陣の一部は塗装せずに仕上げ、そのまま見せる。板壁の美しい木目を見て「このまま全部を隠してしまうのはもったいない」と感じた大林組の提案を施主の中尊寺が認めたことで実現した。塗装しない部分は、節のない板をそろえるなど細心の注意を払い、寿司屋のつけ台(カウンター)のような美しい板壁を構築した。
 スーパー板壁の木材は桧と杉を実験し、今回の工事でも両方を使った。「桧は堅くて耐力も高い。一方の杉は桧に比べて若干柔らかい。剛性と強度で設置場所によって使い分けた」(山中昌之理事設計本部構造設計部長)。実適用の前段階では、東京都清瀬市にある大林組技術研究所で実大実験を行い、万全の検討を重ねて適用した。

◇現地確認し、図面仕上げる

 耐震建築工法は大林組の研究開発チーム、中村建築研究所(本社・長野市、高橋賢二代表)、社寺工舎(岩手県遠野市、菊池恭二代表)が東京大学木質材料学研究室の稲山正弘准教授の技術協力を得て開発した。施工段階でも大林組の構造設計に加えて、同社の社寺に強い意匠や施工の人材が協力して取り組んだ。大林組設計本部は、毎月のように現地まで足を運び、工程のチェックや現場の精度・品質の確認作業などに注力した。建設当時の図面は残っておらず、調査をしながら新しい図面を作成していく。
 榎本浩之設計本部構造設計部課長は「伝統建築の設計に携われて勉強になった。現地を確認しながら図面を仕上げる作業は楽しい」と振り返る。これまで事務所ビルの設計が多かった山中部長は「現代建築は鉄やコンクリートでつくるのに対して、無垢材は品質にばらつきのあるのが、難しくも面白い点。実際に現地に行くたびに、木を使う空間の良さを感じる」と話す。

◇中尊寺以外でも提案

 中尊寺本堂の耐震改修工事は3月末の竣工を予定している。大林組は新工法を生かし、今後は伝統建築の受注拡大を目指す。鶴田信夫常務執行役員東北支店長は「最新の技術を注ぎ込んだ東京スカイツリーと、世界遺産でもある中尊寺。当社が施工する両案件がほぼ同時期の竣工になった。当社の技術力をアピールする好機にしたい」と力を込める。
 施主からも「美しい壁に仕上がっている」と、外観を変えず、品質も安定していることなどに評価は高い。画期的な新工法と世界遺産に適用した実績を武器に、伝統建築分野で同社の存在感を高める。

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