中尊寺本堂 |
◇開発直後の新工法適用
12世紀初め、奥州藤原氏初代清衡が大伽藍を造営した中尊寺。耐震補強工事を行った本堂は、国宝の金色堂とともに寺の中心を成す建物だ。1909年に再建された。東日本大震災で現地は震度5強から6弱の揺れに見舞われ、壁の一部にひび割れなどの被害が出た。また、耐震診断では震度6強から震度7の大地震で倒壊の危険性があることが判明、災害復旧を行うとともに、耐震補強を実施することになった。
大林組にとって平泉町は、「毛通寺本堂の新築工事を施工するなど、以前から縁のある地」(鶴田支店長)だった。2011年夏に、中尊寺本堂耐震補強工事の施工者を決めるため、複数のゼネコンに提案が求められた。東北支店から相談を受けた本社設計本部が出した答えは、開発したばかりの「スーパー板壁工法」の適用だった。
◇壁倍率は国内初10倍超
スーパー板壁工法を開発する契機となったのは、数年前に施工した純木造の新築工事。設計本部構造設計部長の山中昌之理事は「天然の無垢材と、接着剤を使って人工的に作る構造用合材を組み合わせるのは、バランス的に不釣り合いでは」という疑問が端緒になったと振り返る。
伝統木造建築を耐震補強する場合、従来は筋交い(ブレース)を入れたり、構造用合材の壁によって補強するのが一般的。ただ、構造用合材の壁は、地震などに対する壁の強さを示す「壁倍率」が5倍程度のため、建物内に新たに壁を設けるケースも少なくない。従来の開口部が減るなどの課題があった。
これに対して新工法は、柱に溝を彫り、そこに板材を落とし込む「落とし込み板壁」に改良を加えた。板壁にほぞを設け、柱側にほぞ穴を開け、挿入する。同時に、板壁同士や板壁と横架材の間は長ダボによって一体化する。これらの工夫によって壁倍率は、通常の落とし込み板壁が0・6倍なのに対して、スーパー板壁工法は国内で初めて10倍を超える高い剛性と耐力を確保した。
◇施主の要望捉え、受注成功
建物の外観や使い勝手をほとんど変えずに耐震補強できる新工法は、中尊寺本堂耐震補強工事に合う技術だった。東北支店は新工法の採用を即決、数十ページに達する提案づくりが動き出す。東北支店の神道浩建築設計部長は「支店長の指示のもと、提案書を提出する直前まで細かい修正作業が続いた」と振り返る。
会社を挙げて挑んだ提案によって、11年8月に設計・施工一括で大林組に決まった。構造用合材を使った耐震壁に比べて、壁倍率10倍超の新工法なら、壁の量を半減できる。会社を挙げて挑んだ提案が決め手になった。鶴田支店長は「他社がブレースを入れるなどの提案に対して、当社は外観を変えない点が高評価につながった。まさに施主の要望にぴったりの工法だった」と勝因を分析する。
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