2013/07/14

【素材NOW】イ草の天然畳に代わる「和紙畳おもて」 こより技法で強度を確保

日本の伝統床材「畳」の出荷量は、年々減少し続けている。現在は芯材部分の畳床(たたみどこ)が650万畳、張り替え需要を含めた畳表(たたみおもて)が1500万畳。1970年代から比べると、市場規模は3分の1にまで落ち込んだ。畳床に藁(わら)、畳表にイ(藺)草を使う天然の畳は少なくなり、別の原料を使った工学畳が市場を下支えしている。トップシェアを誇る大建工業の中西栄治畳材部部長は「市場全体が縮小しているとはいえ、伸びしろはまだ十分にある」と業績拡大の手応えを口にする。

 同社と畳の関係は、1957年にさかのぼる。天井材や断熱材の需要を取り込もうと、岡山に植物繊維を成型する「インシュレーションボード」の生産工場を稼働させた。生産量は順調に伸びたが、不燃化の要求拡大とともにボードの売り上げは激減、新たな用途への活用が求められた。そこで目を付けたのが畳床への転用だった。

織機
◇減少するわらの畳床

 出荷を始めたのは40年ほど前。当時は藁がふんだんにあり、市場には受け入れられなかったが、70年代後半に入って転期が訪れる。畳床の藁からダニが大量発生する事態が社会問題化し、一方で稲の刈り取りと脱穀にコンバインが導入されたことで畳床に使う手ごろな長さの藁も不足した。
 現在、藁を使った畳床は全体の2割に過ぎない。シェアを伸ばし続けたインシュレーションボードは市場の8割にまで拡大した。このうち9割は大建工業製が占める。畳床に換算すれば、年間約455万畳を供給している。それでも畳市場の縮小を背景に、年間生産量は減少傾向をたどっているのが実態だ。
 同社が畳表市場に参入したのは96年。畳床では独自の営業ルートを確立し、市場をリードしつつあっただけに、畳表でも日本の文化を継承したい思いが社内に強く芽生えた。当時は、中国からの輸入イ草が増加したこともあり、別の素材で代替えできないかと可能性を模索した。


デザインで人気の高い縁なし畳空間
◇和紙にたどり着く

 たどり着いたのは「和紙」だった。成分はイ草と同様に天然植物由来で、肌触りや調湿性も遜色ない。課題は耐久性をいかに補うか。試行錯誤を繰り返し、紙をひも状に加工する「紙縒り(こより)」という日本古来の伝統技法を探し当てた。富安貞行IB・畳表開発室長は「ミクロン単位の薄い和紙を幅20mmの状態にし、それをよってイ草の代わりにした。10回ほど巻いて筒状にしてから、その中に樹脂を染みこませ、課題だった強度もクリアした」と説明する。
 専用の織機にかけた後には、はっ水加工も施す。和紙畳表は陽の当たり具合で退色しやすいイ草の欠点を補い、さらにカビに対する抵抗力も増す。「ただ、天然のイ草の匂いだけは再現できなかった」(富安室長)。96年の発売以来、出荷量は右肩上がりで推移し、2011年度に初めて100万畳の大台を突破した。工学畳表では約7割の出荷シェアを誇るが、畳表市場全体ではまだ7%に過ぎない。

◇縁なし畳にチャンス

 同社は、ことし6月に和紙畳表の商品ラインアップを拡充した。中西部長は「これを機に出荷量の1割増(110万畳)を目指す」とあくまでも強気だ。これまで出荷された商品の3割は縁(へり)なしの畳。一方向に織り込む畳表は両方向の曲げ加工が難しく、畳職人の技量も労力も求められる。「価格は縁あり畳に比べて2倍以上するのに、デザイン面が評価されて売れている。そこにチャンスがある」と考えた。
 高級品の縁なし畳を諦めたエンドユーザーは、フローリングを選択する傾向がある。この層を取り込む戦略の1つとして、定番の縁あり畳『銀白』シリーズに畳表と同系色の縁を用意し、縁なし畳風にアレンジできる商品ラインアップを拡充した。「当社の技術を通して畳文化の良さをもっと知ってもらいたい。畳表市場は1500万畳規模。和紙畳はまだ全体の7%(100万畳)だけに、潜在需要はある」(中西部長)。同社は畳問屋や畳工事店など流通側を軸とした営業の力点を改め、マンションディベロッパーや住宅メーカーなど事業者側にシフトし始めた。
建設通信新聞(見本紙をお送りします!)2013年7月10日

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