東京都大田区の大井ふ頭中央海浜公園には、周辺16カ所の海上公園から「剪定枝」が集められる。重量にして年間170t。指定管理者として各公園の維持管理を請け負う造園建設業の日比谷アメニス(東京都港区)が、3年前に剪定枝を使ったバイオマス発電を東京都に提案した。加藤仁取締役環境事業室長は「実証試験の成果を足がかりに、このシステムを全国的に売り込む」と意欲をのぞかせる。その視線は、間伐材の活用にも向けられている。
◇ソーラードライ
これまで海上公園の剪定枝は、一般廃棄物として1㎞当たり約14.5円で処理されていた。運搬費用なども含めると、年間処理コストは約450万円に達する。同社は森林バイオマス発電に積極的なオーストリアで数多くの実績を持つコナ社の技術に着目した。これは太陽熱を使って効果的に木質チップを乾燥させる「ソーラードライシステム」で、導入実績は既に300カ所を超える。
バイオマスの発電効率を上げるには、剪定枝を細かくチップ化し、そこに含まれる水分をいかに取り除くかがポイントの1つ。剪定枝の含水率は約50%。システムは敷き詰めた木質チップの下から太陽熱で温めた空気を送ることにより、湿度の高い空気を外に放出させる。最短では1週間で含水率を2割以下に抑えることが可能だ。加藤室長は「温かい空気でなく、低湿度の乾いた空気を送り込むことで効率的に乾燥させる」と強調する。
公園で伐採された枝 |
大井ふ頭中央海浜公園にバイオマス発電システムが導入されたのは2011年10月。集められた剪定枝はチップ化され、乾燥施設で十分に水分を抜いてから、バイオマスボイラーで焼却している。そこで得たエネルギーは、園内のクラブハウスへの温熱供給に使う。初期投資は乾燥施設とボイラー設置費用として約3900万円。これまでは年450万円の剪定枝処理コストが発生していたことから、10年後には投資分を回収できる計算だ。
剪定枝などの木質系バイオマスは、燃やしても成長過程の光合成で大気中からCO2を吸収しているため、CO2増減に影響を与えないカーボンニュートラルとして扱われる。山間部では再生可能エネルギーとして注目を集め、国内では間伐材を利用した温浴施設などへのバイオマス発電事例が出始めているが、チップの乾燥が不十分であるために、予定していた熱エネルギーを得られないケースも少なくない。
緑の東京10年プロジェクトに取り組む東京都では公園や街路などの剪定枝が増加傾向にあり、民間からの処理分も含めた場合、年間20万tにも達すると言われている。同社の場合、指定管理者として海上公園を管理する立場にあるため、各公園で発生する剪定枝の収集がスムーズに進んだ。ただ、一般的な街路の管理業務では請負業者がそれぞれの方法で剪定枝の処理を行っており、それを1カ所に集めるには制度設計の改善が求められる。
チップの乾燥室 |
同社が属する日比谷花壇グループでは、現在30カ所ほどで公園などの指定管理を行っており、条件の合う案件には自治体側に同様の試みを呼び掛ける方針だ。地域によっては複数の公園を1つに集約する「スマートパーク化」の提案も行う。2年前に発足した同社環境事業室にとって、今回の試みは事業化に向けた初弾プロジェクトでもある。
大井ふ頭中央海浜公園での取り組みには、この2年間で全国から500人を超える見学者が訪れている。加藤室長は「実は間伐材の有効活用に期待を持つ自治体や森林組合の関心が高い」と明かす。今後、新規に取り組む地域だけでなく、間伐材のバイオマス事業に乗り出している地域も含め、乾燥システムの有効性を積極的に提案する方針だ。既に具体的な引き合いも出始め、2013年度には3地域への導入を目指す。3年後には20地域まで拡大する計画だ。
建設通信新聞(見本紙をお送りします!)2013年7月3日
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