2013/07/12

【建築】今も輝き続ける「道しるべ」 横浜ランドマークタワーが開業20年!


 JR京浜東北線桜木町駅(横浜市)を降りて動く歩道を進むと、その終点に、高さ296mという営業中の建物としては国内最高高さの超高層ビル「横浜ランドマークタワー」がそびえ立つ。1993年7月16日、みなとみらい21(MM21)地区に民間プロジェクトの初弾として完成したこの建物は、間もなく開業20周年を迎える。今なお、ハイグレードなオフィス空間だけでなく、約200店舗が並ぶ商業施設「ランドマークプラザ」、展望フロア「スカイガーデン」、「横浜ロイヤルパークホテル」などが集積した国内最大級の複合施設であり、文字通り“ランドマーク(道しるべ)"として輝き続けている。


◇建物事業費2700億/総勢56社が参画

 その施工には、建築だけで大成建設を代表企業に26社からなるJVを編成、設備工事各社を含めれば総勢56社が参画するという日本の建設業界始まって以来の大規模なものだった。着工に至るまでにも、三菱地所を中心とした関係者の地道な努力と挑戦、知恵、苦労があった。そのうちの一人である三菱地所の合場直人代表取締役専務執行役員は、当時入社12年目。横浜事業所で商業施設部分の開発の実務責任者を務めた。「高さだけでなく、中身も群を抜く“文句なしの日本一"を横浜に造ろうと思った」と振り返る。自身が初めて携わった商業施設の大型プロジェクトでもあり、「今でも特別な存在」という。
 タワーの計画が公表されたころ、その壮大な意図を感じた合場専務は「これは誰がやるのだろうと他人事に考えていた」と明かす。抜擢されたのは88年。「それまで、大阪で2階建て程度の一戸建てを対象にしたニュータウン開発しか担当しておらず、突然70階建てのタワーに携わることになったのだから、スケールの違いには戸惑った」。一方で自分に任せてくれた感謝の念と責任感も大きかったという。
 事業費は建物だけでも2700億円。現時点でも最高額だ。商業施設の計画段階では「通常ならもっと小ぶりで、可変性あるものにしただろうが、印象はまるで宮殿のように、隅々まで手を抜くことなく、超一流に造りあげよう」と誓った。

◇時間なし先例なし、体当たりでの説得

 第一歩は、地元商店街の同意を得ること。同社は構想発表から5年後の完成を目標に掲げており、商業計画を固めてから地元の同意を得るまで「私に与えられた時間は1年と少しだけだった」。時間との闘いが始まる。困ったのは、先例もノウハウもゼロに等しかったことだ。それまで同社は、福岡・天神で商業施設「イムズ」の開発に参画していたものの、これほどの内容も規模も初めて。上司がマネジメントはしてくれたが「随分と大胆な取り組みだった」と率直に振り返る。
 当時、建物計画の規模とそれに必要な商店街の同意の範囲が連動する仕組みになっていた「大規模小売店舗における小売業の事業活動の調整に関する法律(略称・大店法)」には苦労したという。「例えば、隣に100倍規模の商業施設を造りますと言われて納得するはずがない。同意を得るための手法もまったく知らず、とにかく理解してくれるまでやらなければと突っ走った」。
 「居酒屋にはよく通った」と語るように、「市の発展のため、ともに横浜のパイを広げよう」と一人ひとりとひざをつきあわせた。店舗リーシングでは「海から人は来ない」と怒られたこともあった。海に囲まれた地とあって、商業施設には不向きと思われていたからだ。それでも説得に走りまわった。「皆さんとの競合ではなく、われわれは世界からトップのものを集め人を呼び込む。だからその効果を周辺に波及させるためにどうすべきかを一緒に考えてほしい」と。
 手探りの中、出店者の一人に「どんな施設になるの」と聞かれた時に、困り果て、「どこにでもあるものを造るわけがないでしょうと笑って切り抜けたこともあった」
 内装を含めた仕上げ工事は開業の1時間前まで続くなど、開業前夜は慌ただしさと不安で眠れなかった。開業1時間前になっても人が集まらず、30分前になってようやく何千人もの行列が施設前にできた時、ほっと胸をなでおろした。振り返れば、計画づくりからテナント誘致まで人手不足で忙しかったが、「何か大きく大変なことをやろうとする時ほど少人数でやるべきだと学んだ」

◇公と民の新たな“共創社会"必要

 今では、公と民が一体となって開発を進めた先導事例となった。こうしたモデルだけでなく、MM21地区のように、「できたものの価値をより高めるエリアマネジメントの考え方ももっと全国の地方都市へ波及すれば」と期待を込める。「東京・丸の内と横浜・みなとみらいの両方がエリアマネジメントをけん引するはずだ」と。
 今後のまちづくりは「一極集中でも機能分散でもなく、街の機能の“分担"を目指すべき」と提案する。横浜の街は「東京とはまた違い、海に囲まれた環境や港とともに発展してきた歴史など、地元住民でも気付いていないさまざまな無形の財産をもっている。このブランド力を、いかに育成するかが課題となる」と見据える。
 当時と比べて行政による規制は柔軟になったと感じているものの、「行政側は規制一辺倒になるのではなく、必要な施設・機能を自ら提案し、その実現のために民間企業の知恵を引き出すなど、公と民の新たな“共創社会"をつくる必要がある」と訴える。

◇ランドマークタワーの概要

▽建設地=横浜市西区みなとみらい2-2-1ほかの敷地3万8061㎡
▽規模=S・SRC一部RC造、(タワー棟)地下3階地上70階建て塔屋3層、(プラザ棟)地下4階地上5階一部7階建て総延べ39万2885㎡
▽用途=オフィス、ホテル、ショッピングモール、石積ドック、展望フロア、多目的ホール、駐車場など
▽工期=90年3月-93年7月
▽発注者=三菱地所
▽設計・監理=三菱地所
▽施工=大成建設を代表企業とする26社JV
▽空調設備=新菱冷熱工業ほか計7社
▽衛生設備=齋久工業ほか計5社
▽電気設備=東光電気工事ほか計9社
▽基本構想・デザインコンサルタント=ヒュー・スタビンス氏、ザ・スタビンス・アソシエイツ。
建設通信新聞(見本紙をお送りします!)2013年7月12日

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