建築プロジェクトにBIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)の導入が増加したことで、メーカー側に3次元モデルデータの提供を求める流れが強まってきた。「いまはまだ元請けの要請を受けて対応しているBIMだが、受注から製造までの一貫生産が構築できれば、業務の大幅な効率化が実現できる」とはYKKAPの鹿野裕市営業本部設計技術部担当部長。実プロジェクトへの適用を経験する中で、同社は「I(インフォメーション)」の部分をより注視するようになった。
◇WGを組織
YKKAPが社内にBIMワーキンググループ(WG)を組織したのは2011年12月。ファサード事業では、その1年ほど前からBIM対応の相談が出始めていた。海外プロジェクトではBIM対応が欠かせないが、国内では元請けのゼネコンからデジタルモックアップの提供を求められるケースが増えている。WGでは導入メリットを探る上で「M(モデリング)の部分だけでなく、将来的な社内活用を見据えてI(インフォメーション)の部分にまで踏み込んだ議論を展開中」(鹿野担当部長)という。
セクションごとに、どのようなBIMの使い方ができるかを分析するとともに、製造工程の部分も含めて効果を探っている。CADベンダー数社の意見を聞き、データ連携の可能性についても検証を始めた。WGメンバーの近藤俊幸ビル建材第一事業部東京支店設計部課長代理は「営業提案にはBIMの活用価値があり、受注に貢献できる可能性は高い。そのためにも3次元データ作成のスピードが問われる」と分析する。
初適用案件でのデジタルモックアップの効果は絶大だった |
同社にとってBIMの初適用案件となったのは、東京都心部で今春竣工した9階建て延べ約1万4000㎡の複合施設だった。設計・施工を担当したゼネコンは社内にBIMを推進中で、建物全面のカーテンウォールとともにサッシ部分も含め、BIMデータの提供を求められた。
モデリング作業は精度にこだわり、十分に時間をかけた。近藤氏は「建築系CADを使いながらも、機械系CADレベルの細かさで描いた。どこまで精度を上げるべきかを知る絶好の機会となった」と振り返る。デジタルモックアップの効果は絶大だった。関係者の合意形成はスムーズに進み、実物とほぼ同等の見栄えに対する関係者の評価も予想以上に高かった。「現場設置が求められるモックアップ費用が一切かからなかったコストメリットは特に大きかった」と明かす。 この1年間で同社は提案レベルを含めプロジェクト3、4件のBIM要求に対応しているが、自主的に取り組んだケースはなく、あくまでも元請けの要望を受けて取り組んでいる状況だ。
プロジェクト関係者間の合意にも 役だった |
鹿野担当部長は「部品を提供するメーカーの立場だけに、主体的に動くことは難しいが、さらにBIMの普及が進めば、既製品(RM)パーツを3次元データとして提供する可能性も出てくる」と考えている。
初適用案件では、作成した3次元モデルデータを社内で活用できていないことが今後の課題として浮き彫りになった。製造部門にまで一貫してデータを活用できれば、業務効率の大きなメリットを生む。社内には2次元の施工図システムが確立しており、これに3次元データを組み込むことができれば、部品パーツの属性情報を使った自動積算の実現など、業務の合理化につながる可能性を秘めている。
「仮にRMパーツの3次元提供が実現すれば、現在の設計部門はオーダーメードの対応に注力できる」と、鹿野担当部長はイメージを膨らませる。現在、2次元データとして提供しているRMパーツは、プロジェクトの約3割で受注から製造までデータ循環の一貫生産が実現している。「この部分を5割まで引き上げる。一貫生産のデータの流れを整えることが、長い目で見ればBIM移行への近道になるはずだ」
建設通信新聞(見本紙をお送りします!)2013年7月17日
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