千葉県船橋市に本社を置く田中ダイヤ工業(田中光好社長)は、コンクリートの削孔工事や非破壊検査を専門とする従業員12人の専門工事業者。同社が開発した「スプリングビット工法」が最近、あと施工アンカー工事で注目を集めている。コンクリートにアンカーボルトを打ち込むために開ける穴の内側に機械で溝をつくりアンカーを抜けにくくする工法だ。
コンクリートにあと施工でアンカーを打ち込む場合、強度の要となるのはアンカーと本体との密着度だ。通常は削孔機で開けた穴に樹脂製の接着材を流し込みアンカーと本体を密着させるが、経年変化による接着材の劣化などでアンカーが抜ける恐れがある。実際、中央自動車道笹子トンネルの天井崩落事故でその危険性が明らかになった。
同社は、アンカー打設孔の内側に凹凸を作って密着度を上げることでアンカー脱落を防ぐ方法を発案した。コアボーリングマシンの先端に取り付けるビットを改造して斜めにバネを設置、その先端にダイヤモンドビットを取り付けた。マシンを回転させるとこのビットがバネの力で内壁に押し当てられ溝を切る仕組みだ。口径53mmの穴なら、40秒程度で溝を1本切ることができる。既存のボーリングマシンに取り付けて使えるため、専用機械を用意する必要がなく、導入費用がかからないのも特長だ。
打設孔の内側はこうなる |
開発の経緯について田中社長は「アンカー打設孔の内側に簡単に溝を切る方法はないか思案していた。ある時、壊れたおもちゃを直せないかといじっているうちに、くの字に曲がったものを回転させると先端が円を描くことに気付いた」と語る。スプリングビット工法の原理が生まれた瞬間だ。
その後、近所の鉄工所に依頼してさまざまな強度のスプリングと先端に取り付けるビットを試作、実験を繰り返して最適な強度と形状のものにたどり着いたと言う。現在、削孔の口径に応じて4種類のビットを用意している。
日本建設機械化協会施工技術総合研究所の実験で性能が実証されたほか、2012年度に土木学会でも発表したことから注目を集め、大型鉄塔の基礎補強工事に採用された。ことし2月には特許も取得。大手ゼネコンのマンション改修でも採用が検討されている。
また現在、工法を普及させるために研究会の立ち上げも準備中だ。田中社長は「橋梁やトンネルからビルやマンションまで、土木・建築を問わずさまざまなコンクリート構造物の補修や改修に生かせると思う」と今後の普及に期待を寄せている。
建設通信新聞(見本紙をお送りします!)2013年7月3日
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