「少し増えてきたとはいえ、出荷状況はまだ年5台のペース」と説明するのはブーンイダムジャパン(東京都港区)の中原博社長だ。2004年3月に六本木ヒルズで起きた事故以来、回転ドア市場は一気に冷え込み、現在の日本市場では同社が唯一、販売実績を積んでいる。この9年間で33物件40台を納入した。
1990年代には建築の大型化に伴い、回転ドアが普及し、ピーク時には業界全体で年間100台規模で設置された。全国自動ドア協会によると、事故後に使用中止や撤去されるケースが相次ぎ、現在使われている大型の回転ドアは全国に240台程度しかない。
ストックヤード |
中原社長は「いま依頼されるのは、本当に回転ドアの性能を理解してもらったものばかり」と強調する。ことしに入って納入した建築物5件中3件は改修工事だ。5月に設置が完了した長野中央病院のように「特に病院建築では玄関部分に採用していたスライディングドア(引戸)を回転ドアに取り替えるニーズが目立っている」という。
要因は、風対策だ。病院のプランニングでは1階入口に待合室を設けるケースが多く、自動ドアでは出入りのたびに室内に外気が入り込む。回転ドアの設置によって、開口部からの風量はスライディングドアの約10分の1に低減できる。「(施主は)お年寄りや風邪をひいた方々を気遣い、回転ドアの設置を決めている」。この9年間で納入した40台のうち、改修案件は全体の4分の1を占めている状況だ。
海外向けには年間1600台を納入している |
一方で回転ドアを撤去または使用停止した建築物の中には、ドラフト現象が発生している案件も少なくない。特に1階から屋上までをエレベーターシャフトが貫くような高層建築物では回転ドアがなくなることで、上下階の気圧差が生じやすく、ドアの開閉に影響を及ぼしやすい。
世界に目を向ければ、同社は年間1600台もの回転ドアを各国に納入している。需要が拡大しているのは中国で、年200台を数える。日本の設計事務所やゼネコンからは海外プロジェクトで回転ドアを使いたいと相談が寄せられることも多い。日本国内では需要が少ないこともあり、問い合わせの半分は海外案件が占める状況だ。
同社は当面の国内受注目標として、年10台を目安に位置付けている。設計者の中には回転ドアの性能を理解し、建築提案の選択肢に盛り込むケースが少しずつ増えているが、なかなか採用には結びつかない。中原社長は「市場ではまだ、回転ドアに対する建築主側の心理的な影響が残っている」と感じている。
建設通信新聞(見本紙をお送りします!)2013年7月17日
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