2012/12/20

【新国立競技場コンペ】優秀賞のCox Architecture Alastair Richardson氏に独占インタビュー

新国立競技場 Cox案 (Photo:Cox Architecture)
18歳以上の国民の半数が1年間に一度はスポーツ観戦し、6割以上がスポーツ自体に参加する「スポーツ大国」オーストラリア。同国はスポーツ産業も盛んで、建築デザイン、建設資材、イベントマネジメントなどを国際輸出している。11月15日に日本で行われた新国立競技場国際コンペでは、同国のコックス・アーキテクチャー(Cox Architecture)の提案が、優秀賞に選出された。同社はメルボルンのAAMIパーク、北京オリンピックのセーリング会場など、国際的なスポーツ施設の設計提案が評価されている。新国立競技場コンペ提案の代表者を務め、スポーツ施設部門のディレクター、アラスター・リチャードソン氏に設計案の趣旨や印象をインタビューした。



アラスター氏
◇4つのガーデンで四季を表現

--まず、新国立競技場の提案のポイントは
 「スタジアムのシェルは、オリンピックスピリッツを表し、楽しみを全面に出した『ファン・ファースト』という考え方を取り入れた」
 「卵形のシェルは透明で、ダイアグリッド構造を取り入れ、内部には木製のスタンドを配置している。日本の技術や伝統についても表現しているつもりだ」
--日本の伝統というのは、どの部分に取り入れたか
 「シェルの部分に透明な光を、スタンドには日本の寺社建築構造部材である木を使ったことだ。木という材料は、クラフトマンシップが一番発揮される素材だ。スタジアムの質感をこうした材料でつくりたかった。また4つのスカイガーデンを設定した。これらはそれぞれのランドスケープによって、日本の四季を表現する」
 「私たちが暮らすオーストラリアにも四季はある。1日のなかでも移ろいを感じることができる。われわれがスタジアムをデザインするとき、こうした環境をまず考える。太陽が顔を出せば暖かいと感じ、夏季に観戦中は太陽が暑いと感じる。提案のなかで、スタジアムの屋根が太陽や光をうまくコントロールするように考えた」

◇ザハなどについて

--他の提案について、どのように感じたか
 「ザハ・ハディドの提案は、とてもクレバーだと感じた。SANAAと日建設計の提案は、コンクリートでありながら上手に曲線を出している」
--日本で国立競技場のような大きなコンペは珍しいが、ほかの国際コンペと比べて、どのように感じたか
 「オリジナルな募集要項であることが特徴だった。国際的な建築賞の受賞経験や、大規模スタジアムの設計実績を求めていた。有名建築家を集めるという意味では、ストレートな要望だ。オリンピックは国際的なイベントであり、ショーケースとなるので、そういう判断となったのだろう」
--日本の建築についてどう思うか
 「SANAAは、美しく完成された建築家だと思う。また日本には若く、美しい技巧を持つ建築家がいる。欧米はビジネス面に重きを置く建築も多く、技巧を凝らす建築は貴重だ。コックスも、技巧的な建築を目指している。オーストラリアにも、技巧を凝らす建築を目指している若い人がおり、彼らは、住宅設計などを手掛けている」

アデレードの『Adelaide Oval Redevelopment』 (Photo:Cox Architecture)
◇コックスのプロジェクト

--コックスは、どのようなプロジェクトにかかわってきたのか
 「当社のスポーツ施設部門では、多くの大規模プロジェクトを経験している。アデレードの『Adelaide Oval Redevelopment』は、クリケット場の再開発プロジェクトだ。このプロジェクトは2つのパビリオンを配置し、非常に技巧的な建築となっている。歴史のあるクリケット場を再構築するが、スコアボードは120年前のものを使用する」
--コックスの今後の展開は
 「豪州では、西オーストラリア州政府が進めている『パーススタジアム』プロジェクトがある。これはPPP手法を活用した大規模プロジェクトだ。このスタジアムのほか、クライストチャーチの震災復興関連の計画に参加している」
 「オリンピックは4年ごとに開催され、サッカーワールドカップでもスポーツ施設の需要はある。こうした案件に取り組んでいきたい。また、これからは、環境やサスティナビリティが重要だ。建築に何ができるのかを考えながら、この大きなテーマに取り組む」
--日本との今後の関係についてどう考えるか
 「われわれは、アジアにおいてジャカルタのコンベンションセンターや、インド、中東、中国でも多くの案件を担当している。アジアの一員として、パートナーシップの構築を進めている。日本や日本の建築家ともポジティブな関係をつくり、仕事をしていきたい。今回の国立競技場コンペはその良い機会となった」
建設通信新聞(見本紙をお送りします!)2012年12月20日14面



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