2015/02/15

【この人】水害を防ぐハード、ソフトを追求 日本国際賞受賞の高橋裕東大名誉教授

国際科学技術財団の2015年日本国際賞を受賞した高橋裕東大名誉教授。
 同大学に入学した1947年は、カスリーン台風が日本を襲い死者1077人、行方不明者853人という大きな被害をもたらした。「終戦の昭和20(45)年から伊勢湾台風の34(59)年までの15年間は、日本の歴史の中で最も水害がひどかった時期だ。死者が年間1000人以下だったのは3年しかない」。当時は水害を防ぐハード、ソフトともに未整備だったという事情もあり、大型の台風や集中豪雨などがあれば被害が大きくなった。

 「57年からフランスに留学していた。日本では水害で毎年1000人以上が亡くなっているという話しをしても、桁を間違えているのではないかと信じてもらえなかった」。伊勢湾台風の被害が同国の新聞でも報じられ、日本は水害がひどい国ということが理解された。
 東大を退官して87年に芝浦工業大学の教授に就任したころから、「海外出張が多くなった」。世界の水問題を10年計画で研究して対策を立てるユネスコの会議に、88年から8年間、政府代表として参画した。また、各国がお互いに河川のことを知るべきだとユネスコに提案、東南アジアと太平洋地域の国が参加した委員会を設置して初代委員長を務めた。
 日本国際賞の授賞理由で、アジアモンスーン地帯の13カ国による協力体制を構築して、地域協力や人材育成に尽力したことが挙げられている。バングラデシュで91年に約14万人の犠牲者を出したサイクロンについて、責任者としてまとめた国連の報告書で「堤防整備よりも避難のための情報提供やシェルターの整備を充実すべき」と提言した。この提言に基づきODA(政府開発援助)による整備の結果、2007年に発生した同規模の高潮災害では、犠牲者が約4000人と大幅に減らすことができた。
 東日本大震災を契機に防潮堤や堤防など構造物だけでは自然災害を防ぎ切れないことが共通認識となった。高橋名誉教授が総合治水対策で40年以上前から唱えていた施設だけに頼らないハード、ソフトの対策の必要性がようやくスタンダードになってきた。
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