2014/04/20

【佐藤直良のぐるり現場探訪】今回は広島の砂防堤防と道路保守工事

長楽寺砂防堰堤工事で平賀氏(左)から説明を受ける筆者(右)
2月初旬、新幹線で西へ向かう車窓はところどころ雪景色だった。広島駅から駅前広場に出ると冷たい横風に雪が舞っていた。今回の訪問は国土交通省中国地方整備局が実施している2つの事業である。1つは1999年6月29日の土砂災害を契機に2001年度から開始された、大田川河川事務所が担当する広島西部山系直轄砂防事業の一環として進められている、広島市安佐南区の長楽寺砂防堰堤工事。もう1つは国道2号を中心に総延長228㎞の区間の管理を担う、広島国道事務所広島維持出張所管内の道路維持全般を行う広島保守工事で、今回は防災・減災とメンテナンスのまさに最前線の現場だ。

■長楽寺砂防堰堤工事/われわれの地域守る防災工事

長楽寺砂防堰堤工事の現場
安佐南区の山の斜面に開発された、大きく広がる閑静な住宅地の直上流、まさに家々の真裏の渓流が目指す現場だ。工事を担当するのは、地元安佐南区の宮川興業。当日は堰堤の基礎などの掘削が終了し、地盤改良の真っ最中だった。現場には宮川眞社長を始め、会社幹部の皆さんがわざわざ駆け付けてくれた。地元の防災工事に対して「われわれの地域はわれわれ自身で守る」という気概が経営陣にみなぎっていた。

◇地元に安心感と工事への理解を

現場代理人は、道路法面工事などを経験し、砂防の現場は初めてという中堅技術者の平賀浩一氏(40歳)。監理技術者は、父親も土木屋で温厚なベテランの下手豊文氏(58歳)。住宅地に近接する現場条件下、特に気を遣っていることを3点挙げられた。
(1)防災の三重奏
 防災工事を実施しながら、現場と同時に下流の住宅地の防災にも万全の配慮を行っている。96年、新潟・長野県境の蒲原沢で土石流災害が発生し、前年の豪雨災害復旧工事に従事していた14人の尊い命が失われた。当時筆者は建設省(現国土交通省)河川局で建設専門官の職にあったが、その衝撃は今でも頭をよぎる時がある。
 その後、砂防工事現場における上流側の土石流発生の検知のため、土石流センサーを設置することが一般的になってきている。この現場でも土石流センサーを上流部に設け、現場で働く人たちの安全を守っている。また、工事中の大雨で下流に迷惑を掛けぬよう水替も工夫を重ねながら必要な措置が取られていた。
(2)付近の住宅地の環境保全
 すぐ直下が住宅地で、現場が風の通り道でもあるため、騒音、粉じん対策に関しては低騒音型機械や排ガス対策型機械を使用するなど、相当気を遣うとともに一般道路へのタイヤ付着土汚染にも必要な対策を実施している。
(3)通学路安全対策
工夫を凝らした注意喚起の看板
土砂運搬、コンクリート搬入などで多くのトラックが住宅地を通って現場に出入りしている。特に朝夕の子どもたちの通学時には細心の注意が必要なため、地元との協議を経て、さまざまな安全対策を講じている。目を見張ったのが、道路脇に設置された大型車両の通行に注意を呼び掛ける黄枠の看板である。工事車両のイラストとともに、ふりがなを振った大きな字で「今日は大きなダンプや工事の車が通行しております」と書かれ、大型車両が通行しない日は看板に付けている幕を下ろして目隠しできるようになっていた。通常の工事案内を表示する青枠の看板もあり、枠の色のみでも情報が判別できるよう工夫している。
宮川社長(左から3人目)らと筆者
このような取り組み1つとっても周辺住民の安心感、工事への理解増進に役立つはずで、全国標準になればと願う。

◇造ったものが一生残る土木の道

 現場で働く人々の中で、とりわけ注目したのが、一番若い壹岐大一氏(27歳)。九州出身で広島工大卒の入社4年目の新進気鋭の技術者である。この現場に配属されて5日目、ソイルセメントの配合確認を担当している。尊敬する父親も建設関係の仕事をしており、「熱がある時でも生活のため働いてくれた」と振り返る。
 彼の力強い言葉が印象的だった。「建築を学ぶつもりだったが、造ったものが一生残る土木の道に進んで良かった。先輩方が仕事中は厳しく、仕事が終わると優しく接してくれる。この会社に入って本当に良かった。一生この仕事を続けていきたい」
 生き生き仕事に励んでいる姿に接し、このような若者が建設の世界に増えてくれることを切に願った次第である。

■広島保守工事 24時間365日 対応待ったなし

中原氏(左)と小早川氏
広島維持出張所で保守工事の苦労を語ってくれたのは、現場代理人の小早川秀行氏(40歳)、この道35年の中原高司氏(62歳)を始めとする伏光組の方々と、下請けとして参画している占部建設工業、東洋安全施設の方々である。
 伏光組の伏見光暁社長とは前日に開かれた中国地方建設青年交流会の研修会に引き続き会うことができた。保守工事は「つらいけどやりがいのある仕事」と中原氏が語られた言葉が強烈な印象であった。
 折からの雪のため、凍結防止剤散布の仕事で10人の方々が3日間徹夜した。代理人の小早川氏ももちろんその一人である。眠い目をこすりながら真剣に取材に応じてもらい、感謝の気持ちで一杯だ。
 保守工事は24時間365日待ったなしの対応を迫られる。仕事のベースとなる道路巡回は2日に1回。筆者が中部地整局長時代には、国交省職員による2人1組の直営パトロールも含めて毎日巡回していたと記憶しているが、定員削減の影響で直営パトロール体制が組めず、民主党政権時の仕分けによる維持管理費の削減の影響もあってか今のペースになったようだ。
 1日10万台を超える車両が通行する国道2号の巡回では、路上の落下物の処理をとってみても、危険と隣り合わせで、その苦労は実際に従事した方にしか分からない!
 それでも直轄職員の技術力維持向上のため、2週間に1回は直営パトロールを実施しているとのこと。現場の国交省職員の志の高さに敬意を表する次第である。

◇行政、建設業一体で汗を流す

 保守工事の内容は多工種にわたっている。道路補修は、交通規制の関係から一般的に夜間が多く、仕事の手間が掛かり、段取りもスムーズさを要求される。交通事故の際、油、ガラスなどの処理も重要な仕事であり、昼夜を問わず突発的な対応が迫られる。このため、担当業者のみならず、国交省の現場職員の苦労も並々ならぬものがある。
今井氏
当日は広島国道事務所の伊藤博昭副所長、広島維持出張所の玉田仁惠所長、今井宏管理係長の3人の話を聞く機会にも恵まれた。事務所も24時間365日体制で、いざ何かあると事務所から原則として今井係長、交替で玉田所長に情報が入り、伏光組の小早川代理人に指示を行う。そのためかこの正月、今井係長は郷里の愛媛県に帰郷できなかったとのことである。
 国交省職員の言葉が印象的であった。「公務員は転勤がつきものであり、伏光組の方々(下請けの方々も含め)が現場を熟知してくれているので助かっている」
 補修、事故発生、路面凍結などの履歴をGIS(地理情報システム)データをベースに体系的に整理しておくとともに、現在筆者らが検討している社会資本に関連する、さまざまな事象をリアルタイムに画像処理する技術やデータ処理技術、アラームシステムなどICT(情報通信技術)を導入する次世代型管理システムが、現場を支える意味で不可欠であると痛感した。
伏見社長(左から2人目)らと筆者
伏光組を始めとする請負業者側の日常の心構えにも頭が下がる思いであった。
 「現場代理人以下、保守工事担当の全員で酒を飲むことはない。必ず当番を指定し、その者は当番の日は絶対に酒を飲まない」
 日ごろの緊張感は公務員と全く同じであり、この現場では行政、建設業一体となり、世の中のために大変な苦労を抱えながら汗を流している。

◇現場の志が高い今、課題解決を

 「貧すれば鈍する」ではないが、デフレ経済下で縮み思考が世の中を支配した結果、目的を見失い、手段ばかりに目がいっているきらいがある。無駄な道路だとか、B/C絶対論とか……。一番大事なのは「道路は適正に管理されてこそ、機能が発揮される」。これが当たり前の大前提である。
 今回の保守工事は、総合評価方式による一般競争入札で、2社辞退の結果、伏光組が落札した。この種の保守工事は単年度契約から複数年契約へと移行してきているが、果たして一般競争をベースにして良いのか大いに疑問だ。
 さらに積算は積み上げ式で、例えば道路のポットホール修復は、かかった時間の労務費と材料費を計上し、設計変更を行う。また、保守工事も以前は雪寒事業と同様に待機時間の人件費が一部計上されていたと記憶しているが、現在は計上されていないはず。積算の考え方が現場で働く方々の志に果たしてマッチしているのか疑問視せざるを得ない。
 保守工事にはまだ課題が山積しており、「現場で働く人たちが志の高い今のうちに!課題解決を!!」と切に願う。

◆工事概要

 〈広島西部山系長楽寺砂防堰堤工事〉
▽工期=2013年6月27日-15年3月20日
▽施工=宮川興業
▽工事概要=砂防堰堤1基築造、堰堤長84m、堰堤高15m、コンクリートボリューム約4600m3

〈広島保守工事〉
▽工期=2013年4月1日-14年3月31日
▽施工=伏光組
▽工事概要=道路巡回、路面補修、路面清掃、排水施設清掃・除草、構造物補修、応急復旧処理、損傷復旧、災害対応、凍結防止剤散布
建設通信新聞(見本紙をお送りします!)

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