2016/10/18

【訃報】建築家・小嶋一浩氏 開放的で可変性の高い空間構成、学校建築に多大な功績 


 横浜国立大学大学院Y-GSA教授で、CAt(シーラカンスアンドアソシエイツ)を共同主宰する建築家の小嶋一浩(こじま・かずひろ)氏が13日午後10時36分、食道がんのため死去した。57歳だった。通夜は20日午後6時から、告別式は21日午前10時30分から、いずれも東京都港区南青山2の33の20の青山葬儀所で執り行う。喪主は妻で建築家の小嶋(城戸崎)和佐(なぎさ)さん。

 1958年大阪府生まれ。京大卒後、東大大学院修士課程修了、同博士課程在学中の86年に6人のパートナーでシーラカンスを共同設立。98年シーラカンスアンドアソシエイツ(C+A)に改組、2005年には東京と名古屋の2事務所に再編し、赤松佳珠子氏をパートナーにCAt(シーラカンスアンドアソシエイツ東京)として活動を展開していた。
 オープンスクールの先駆けと言われる『千葉市立打瀬小学校』で97年日本建築学会賞(作品部門)を工藤和美氏、小泉雅生氏、堀場弘氏とともに受賞。『宇土市立宇土小学校』では村野藤吾賞、AACA賞(日本建築美術工芸協会賞大賞)、日本建築家協会賞など数多くの賞を射止めた。
 開放的で可変性の高い空間構成や、使い方が特定されてしまう空間を「黒」、特定されない空間を「白」に整理するという「白と黒」など独自のキーワードから導かれる建築への評価は高く、ことし2度目の日本建築学会賞(作品)に輝いた『流山市立おおたかの森小・中学校、おおたかの森センター、こども図書館』は、その選定理由の中で「家具的なスケールから都市的なスケールまでを極めて高い完成度で実現している様は見事である。今後、学校建築を語る上で常に参照され、また語り継がれていく建築であることは、間違いない」と激賞された。
 こうした設計活動の一方、東京理科大で94年から2011年まで助教授、教授として後進を指導、11年からは横浜国大大学院Y-GSA教授に就くなど、建築教育者としての評価も高かった。
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 ことし4月、日本建築学会賞受賞のインタビューでお会いした。いつもどおりの軽妙な言葉で設計を語り、その後の式典や講演会でも元気な姿を見せていただけに、その訃報はいまだに信じられない。きょうもまたあの洒落た服装に身を包み、どこかの地方自治体で公共建築について地元住民や役人と語り合っているに違いない、と心のどこかで期待してしまう。
 発注者、設計者、施工者、利用者らが協力した建築設計の重要性をよく語っていたが、「『みんなでつくる』建築が当たり前になった時に、建築家がイニシアチブを取れるのか」と最近はそうした民主的な設計の限界も口にしていた。その言葉からは、建築家の社会的役割が無視される状況への強い危機感を感じた。
 大きな契機となったのは、建築家の立場から東日本大震災からの復興を支援する「ArchiAid(アーキエイド)」の活動だろう。多くの建築家がさまざまな復興のアイデアを示し、地元住民とのワークショップを繰り返し開きながらもその知見が復興計画に反映されることはほとんどなかった。この体験以降、土木・都市計画・補助金制度に対するリテラシー不足を解消するための建築と土木の双方に配慮できる新しい建築家像を繰り返し訴えた。
 4月のインタビューでこれから設計したい建築について聞くと、「相手の要求に応えるだけではなく、誰も思いもしなかったアイデアで新しい未来を示したい」と含みのある言葉だった。これからさらなる活躍が期待されていただけに、57歳のあまりにも早過ぎる逝去だった。 合掌

■建築界の大きな損失 堀場弘氏(シーラカンスK&H代表取締役)

 大学院で一緒にシーラカンスを設立し、規模が拡大したこともあって分社したが、当初からの仲間であり中心的な人物だった。春先に大学(東京都市大)の講評会に来てもらったときは元気そうだっただけに大変驚いている。論理的にものごとを進める人で若い人に人気があり教育者としても優れていた。本当に残念であり建築界全体としても大きな損失だ。私自身も建築設計の分野に進んでいく上で非常に大きな存在だっただけに喪失感が非常に大きい。

■あるべき姿を示唆 古谷誠章氏(建築家・早大教授)
 小嶋さんが学生だったころから、既に30年以上の長い付き合いをしています。突然大切な友人でありまた建築の同志を失くして、あんまりだという気持ちでいっぱいです。ことし3月まで審査などをご一緒し、いつもと変わらぬ的確な判断力に触れていたので、その後体調を悪くされたと聞き心配をしていました。にこやかな顔をされながら、時に発する端的で鋭い言葉は、私たちに常に建築のあるべき姿を示唆してくれました。謹んで冥福をお祈りします。
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