熊谷組が手掛ける九州・雲仙普賢岳の無人化施工現場は、世界の最先端をいっている。その技術とシステムは、特に最近の原発事故対応または維持管理を見据えたロボット開発の機運の高まりとともに、各方面からたたえられている。黒部ダムや青函トンネルなどの歴史的偉業に匹敵すると、筆者は高く評価している。
建設業界が輝いていた時代、1980-90年代にニューフロンティア構想の名の下、宇宙、海洋、地下へと関心が集まり、その一環で建設ロボット開発の必要性が高らかにうたわれた。シールドやTBM(トンネル・ボーリング・マシン)などのトンネル掘削技術も広義のロボット技術と評価されるが、この間の最大の成果は、無人化施工技術であるといっても過言ではない。
◆『CIIM』と融合の芽
現場ではこの無人化施工技術と、筆者が提唱した『CIIM(シビル・インフラストラクチャー・インフォメーション・マネジメント)』の融合の芽がいぶき始めている。「世界最先端技術と世界初のマネジメントシステムの融合!」「すばらしい世界が目の前だ!」と声を大にし、ここまでの道のりを歩んでこられた関係者の尽力に最大限の敬意を表したい。
旧建設省時代からの砂防部局、機械部局、九州地方整備局雲仙復興事務所などの行政関係者、熊谷組を始めとする建設無人化施工協会、技術的サポートを担う学識経験者、そして何よりも、今回熊谷組の工事で協力会社として重機操作などを担い、専門的技量を最大限発揮している共栄機械工事、アルファ通信などプロ集団の存在である。産官学の枠組みが結実し、いま元請企業と協力会社が一体となり、現場で技術を使いこなしている。
現場訪問の当日、熊谷組本社からは、山崎晶常務執行役員土木事業本部副本部長、北原成郎土木事業本部機材部長、坂西孝仁同機材部担当部長ら幹部の方々、九州支店からは、宮脇悟支店次長、山下正治土木部長などに同行いただき、熊谷組がこの現場にかける意気込みを強く感じた。工事内容は現場の岡本仁所長、江良耕一現場代理人らに説明いただいた。特に旧知の北原氏は、東日本大震災を受けて行った超長距離無人化施工の検討時に、中核を担っていただいた傑物である。
◆神技が工事の死命を制す
雲仙の「赤松谷川11号床固工工事」の遠隔操作室には、張りつめた緊張感が漂っていた。現地のカメラ画像を見ながら、実際に建設機械を操作するのは共栄機械工事の川平和則さん、吉田勝さん、内村幸敏さん、山下隆治さん、前田照夫さんたちだ。統括するのは九州支店長の山口善美さん、職長の藤井政雄さん。
画像を見つつ重機同士の動きを調整し、ほかのオペレーターに指示する声、画像を送るカメラの操作を指示する声--。失礼ながら想像していたよりも狭いオペレータールームでのやり取り、そして熟練された神技のような操作。これらが工事の死命を制していると実感した。
個々の技量と全体のチームワークこそが、無人化施工を支えている。ブルドーザーの運転を担当する川平さんの話によると、「通常の施工に比べて効率は全体で約6割程度。カメラがどこを写すかが一番大事。機械の後ろからの画像を重視する人もいれば、機械正面の近接画像を重視する人もいる。何にしてもカメラ画像を操作する人が、オペレーターの特徴を理解していただくのが最も重要」とのことだ。
◆適材適所の人員配置が肝
アルファ通信所属でカメラ操作を担う島田真結さん、都万理子さん、下田龍さんの3人はいずれも若い方で、前者の2人は女性だ。そこで川平さんに質問した。カメラ操作は、重機のオペレーター経験者の方がより適しているのではないか。
答えはノー。「重機の操作をまったく知らない人の方が、オペレーターの特徴を早く素直に理解してくれる。そして仕事の性格上、カメラ操作は女性の方が向いているかもしれない。何よりカメラ操作担当としてペアを組む、孫に近い若い女性を怒鳴るわけにはいかないからね」。やさしい笑顔で語るその姿は、この仕事への誇りと自信に満ちあふれていた。
集合写真をお願いしたところ、皆さん仕事中の厳しい顔つきから一転、若干緊張しながらも、柔和な顔に変わったことが印象的であった。なかでもカメラを操作する島田さんは盛んにピースサインを出し、この部屋のチームワークを支えている存在だと感じた。
「現場の岡本所長を始めとする社員のみならず、協力会社の方々はみんなすごい連中だ」。現場を訪ねる前、熊谷組の大田弘代表取締役会長がこう言われた。まさにそのとおりであり、この集団なくして、世界有数の技術は有り得ないと確信した。
「この操作室の人々が一番大事な存在で、時折、現場の若い社員がオペレーターの方々からお叱りを受けることもある。協力会社との全体調和で現場を進めている」とは岡本所長の言葉。そこに、元請企業と協力会社の関係のお手本を見た感じがした。
◆ひとこと・暗黙知の大切さは不変
世界有数のシステムは、ハードのみでは動かない。ICT(情報通信技術)の活用や機械化の促進は、建設分野でも必然の流れである。しかし、システムを支える中核は、しっかりとした技量を持った技術者、技能者たちだ。
筆者が過去に訪れた世界の潮流をリードする製造業の工場でも、ロボット化やICT化は驚くほど進んでいたが、システムの中核は間違いなく人間だった。例えば、仕上げや節目のチェックは、熟練のプロが目を光らせていた。彼らの長年培った暗黙知こそが、日本のものづくりを支えているといっても過言ではない。
建設分野の未来への方向性が、今回訪れた熊谷組の現場で垣間見られた気がした。
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建設業界が輝いていた時代、1980-90年代にニューフロンティア構想の名の下、宇宙、海洋、地下へと関心が集まり、その一環で建設ロボット開発の必要性が高らかにうたわれた。シールドやTBM(トンネル・ボーリング・マシン)などのトンネル掘削技術も広義のロボット技術と評価されるが、この間の最大の成果は、無人化施工技術であるといっても過言ではない。
◆『CIIM』と融合の芽
現場ではこの無人化施工技術と、筆者が提唱した『CIIM(シビル・インフラストラクチャー・インフォメーション・マネジメント)』の融合の芽がいぶき始めている。「世界最先端技術と世界初のマネジメントシステムの融合!」「すばらしい世界が目の前だ!」と声を大にし、ここまでの道のりを歩んでこられた関係者の尽力に最大限の敬意を表したい。
旧建設省時代からの砂防部局、機械部局、九州地方整備局雲仙復興事務所などの行政関係者、熊谷組を始めとする建設無人化施工協会、技術的サポートを担う学識経験者、そして何よりも、今回熊谷組の工事で協力会社として重機操作などを担い、専門的技量を最大限発揮している共栄機械工事、アルファ通信などプロ集団の存在である。産官学の枠組みが結実し、いま元請企業と協力会社が一体となり、現場で技術を使いこなしている。
熊谷組の方々と現場をバックに記念撮影 |
◆神技が工事の死命を制す
安全地帯に設置された遠隔操作室 |
操作室内部 |
個々の技量と全体のチームワークこそが、無人化施工を支えている。ブルドーザーの運転を担当する川平さんの話によると、「通常の施工に比べて効率は全体で約6割程度。カメラがどこを写すかが一番大事。機械の後ろからの画像を重視する人もいれば、機械正面の近接画像を重視する人もいる。何にしてもカメラ画像を操作する人が、オペレーターの特徴を理解していただくのが最も重要」とのことだ。
◆適材適所の人員配置が肝
巧みなカメラワークが作業のかぎを握る |
答えはノー。「重機の操作をまったく知らない人の方が、オペレーターの特徴を早く素直に理解してくれる。そして仕事の性格上、カメラ操作は女性の方が向いているかもしれない。何よりカメラ操作担当としてペアを組む、孫に近い若い女性を怒鳴るわけにはいかないからね」。やさしい笑顔で語るその姿は、この仕事への誇りと自信に満ちあふれていた。
集合写真をお願いしたところ、皆さん仕事中の厳しい顔つきから一転、若干緊張しながらも、柔和な顔に変わったことが印象的であった。なかでもカメラを操作する島田さんは盛んにピースサインを出し、この部屋のチームワークを支えている存在だと感じた。
現場を支えるプロ集団の面々 |
「この操作室の人々が一番大事な存在で、時折、現場の若い社員がオペレーターの方々からお叱りを受けることもある。協力会社との全体調和で現場を進めている」とは岡本所長の言葉。そこに、元請企業と協力会社の関係のお手本を見た感じがした。
◆ひとこと・暗黙知の大切さは不変
世界有数のシステムは、ハードのみでは動かない。ICT(情報通信技術)の活用や機械化の促進は、建設分野でも必然の流れである。しかし、システムを支える中核は、しっかりとした技量を持った技術者、技能者たちだ。
筆者が過去に訪れた世界の潮流をリードする製造業の工場でも、ロボット化やICT化は驚くほど進んでいたが、システムの中核は間違いなく人間だった。例えば、仕上げや節目のチェックは、熟練のプロが目を光らせていた。彼らの長年培った暗黙知こそが、日本のものづくりを支えているといっても過言ではない。
建設分野の未来への方向性が、今回訪れた熊谷組の現場で垣間見られた気がした。
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