RevitからMaximoにデータを取り込んだ |
◇IBMマキシモ
ICT(情報通信技術)を活用した産官学連携のプロジェクトを数多く展開する同社にとって、BIM活用は新たなビジネス展開の可能性を予感させるものとなった。屋代敏之スマーター・シティーズビジネス・デベロップメント部長は「これは維持保全のツールとして、国や自治体、さらには民間企業にも売り込める」と手応えを感じた。
同社の設備保全管理ソフト『Maximo』(マキシモ)は、石油、化学、電力、プラントなどの分野で幅広く愛用されている。もともと原子力発電所の保全管理向けに開発された。あらかじめ劣化状況を予測し、事故や故障が起こる前に手を打つ「予防保全」の考え方で施設管理を支援するソフトだ。これまで建築物の維持管理に使われたケースはなかった。
◇Revitと連携完了
BIMソフト『Revit』(レビット)を提供するオートデスクとのシステム連携が整ったのは2012年。レビットで作成されたBIMデータはデータフォーマット「COBie」(コビー)を介して、マキシモに取り込めることができるようになった。このデータ連携による効果を確認しようと、大手ゼネコン各社に共同プロジェクトの発足を呼び掛け、真っ先に手を挙げたのが大成建設だった。
日本の建築プロジェクトでは設計・施工段階でのBIM活用が目立ってきたが、維持管理段階にまでデータを連携させた事例はなかった。屋代部長は「建設段階では可視化効果にスポットが当たるBIMだが、建物のライフサイクルコスト(LCC)で75%を占める維持管理段階にこそ、BIM活用のメリットは大きい」と考えていた。
日本IBM大阪ビル |
大成建設との実証プロジェクトに選んだのは1974年に竣工した日本IBM大阪ビル。規模は地下4階地上12階建てで延べ2万㎡を超える。大成建設が2週間かけて設計図面をBIMデータ化し、その設計情報から作成した設備台帳を維持管理用として使い、運用コストの効果を算出した。
スマーター・シティー事業企画担当の三崎文敬部長は「BIMデータをFM(ファシリティ・マネジメント)に生かせることが、このプロジェクトの意義であり、資産価値向上のツールにも成り得る」と語る。マキシモで詳細なデータ管理が行えるようになれば、建物の維持管理を予防保全の視点から分析できるからだ。
BIMデータとリンクした維持管理用の設備台帳は、不具合が発生した場合に製品や部位の関連情報を迅速に把握し、最適な対処方法を立案する糸口になり、結果的に保全業務の生産性は大幅に向上する。両社は実証結果を建設費100億円のビルに当てはめた場合、約320億円と想定される保全修繕費用の約13%に当たる約41億円の削減効果が見込めると判断した。
◇CRE戦略へ
BIMとFMのデータ連携効果は他にもある。屋代部長は「建設業界にとっては設計段階から建物のLCCを試算できるようになれば、初期投資(建設費)アップの提案につながる」、三崎部長は「川上段階から建設プロジェクトの運用効率を検証できれば、事業者側へのCRE(企業の不動産戦略)支援にもビジネスの幅を広げることができる」と強調する。
実証プロジェクトはBIMとFMの連携効果を導き出した国内初の試みとなったが、現時点で維持管理段階のBIM活用には、いくつかの乗り越えるべき課題がある。属性情報の統一など基盤整備の部分だけではない。屋代部長は「最終的にBIMデータとリンクした維持管理の台帳を有効に使いこなせるプレイヤーの存在がかぎを握る。BIMが建設業界にイノベーションを起こそうとしているように、ビル管理会社にとっても新たなビジネスツールとして発展する可能性を秘めている」と見通す。
建設通信新聞(見本紙をお送りします!)2013年6月19日
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