2014/09/18

【建築学会大会】自然災害乗り越える再生目指し、知見・技術を生かせ

自然災害が多発するなかで、日本建築学会がそれにどう対応するのか、これまでどう対応してきたのかが一般社会から問われている--。12日から14日にかけて開かれた「2014年度日本建築学会大会(近畿)」で、大会委員長を務めた小阪郁夫京都工芸繊維大教授はそう強調する。建築や都市が災害とどう向き合うのか。27年ぶりに神戸大で開かれた大会には6000以上の研究発表と1万人以上の来場者が参加し、「再生-未来へつなぐ-」をテーマに掲げ、阪神・淡路大震災から「再生」した現在と東日本大震災から「再生」する未来に対し建築・都市の果たす役割を改めて問い直した。12日に開かれた開会式で吉野博会長は「気候変動を理由とする豪雨や豪雪といった災害が多発し、東日本大震災からの復興もなかなか進まない。『再生』についての検討により、自然災害の困難を乗り越えたレジリエントでサステナブルな未来につなげてもらいたい」と期待を語った=写真。

◆仮設住宅に過去の知見を生かせず/「計画系若手研究者は災害研究にどう向き合うか」/ストラテジー特別研究委員会パネルディスカッション

初日に開かれた計画系災害研究のストラテジー特別研究委員会のパネルディスカッション「計画系若手研究者は災害研究にどう向き合うか」では、阪神・淡路大震災と東日本大震災の2つの災害を住宅、都市、福祉住環境、仮設住宅といった側面から比較し、過去の知見を生かし切れない災害対応の問題点を指摘した。
 特に仮設住宅については「事後的な対応を繰り返してバリアフリー化など住宅として最低限のことすら実現していない」(神戸学院大の糟谷佐紀氏)、「地域性を考慮しないため追加工事が発生しコストが増加している」(京都工芸繊維大の阪田弘一氏)と批判した。
 北海道大の野村理恵氏は「東日本大震災では、地域のつながりを生かした避難所の設置など阪神・淡路大震災の知見を生かした取り組みは成果を上げた」としながらも、「(仮設住宅では)人間の関係だけに注目するのではなく、人々が集まる場所をどう生み出すかが求められている」と指摘。多様な支援を実現するため、災害研究と現実をつなげた建築・都市を考える必要性を述べた。

◆“建築の寿命”という考えを更新/「原子力発電所の寿命を考える」/原子力建築運営委員会パネルディスカッション

多くの聴衆を集めたのは、原子力建築運営委員会によるパネルディスカッション「原子力発電所の寿命を考える」だ。研究者・技術者のほか、数多くの学生も出席し関心の高さをうかがわせた。高い信頼性が求められる原子力発電所の維持管理や長寿命化、劣化部の評価方法について発表し、ストック時代におけるRC造建築のあり方を探った。
 発表後のパネルディスカッションでは、中部電力土木建築部の梅木芳人氏が「材料と構造の一体化が重要になる」と指摘し、素材と構造の両分野における知見をいかに共有、評価するかを考える必要があるとした。また首都大学東京の北山和宏教授は「建築の寿命は機器・配管のような設備の老朽化が原因。適切に維持管理すれば建築の寿命はさらに延ばすことができる」と語り、建築の寿命という考え方を更新する必要性に言及した。
 これを受け丸山一平名古屋大准教授も建築の寿命について総括し、「建築の寿命は設備との複合的な要因で決定するものであり、100年程度ならRC造建築の使用は十分に可能」とした上で「そもそも建築の寿命は使用状況によって変化するものであり、経過年数によって一律に決まるものではない。建築技術者がいれば建築の寿命を延ばすことも可能であり、本来の建築寿命は建築技術者や建築技術によって科学的な見地で決めるべきではないか」と力を込めた。

◆地域で味わう物語の提案を/記念シンポジウム「まちの再生と市民まちづくりのこれから」

 神戸大出光佐三記念六甲台講堂で開かれた記念シンポジウム「まちの再生と市民まちづくりのこれから-震災を経て市民まちづくりはどう変わったか-」=写真=では佐藤滋早大教授が基調講演したほか、地元団体が阪神・淡路大震災後の市民まちづくりを紹介。発災以前から市民同士で密接な関係を構築したことが、被災後の復興とまちづくりに大きく貢献した事例を示した。
 弘前大の北原啓司教授は「われわれは本当に専門家なのか」と問題を提起し、都市計画・まちづくりの専門家が必ずしも復興に寄与しない現状を指摘。「参加型まちづくりや防災まちづくり、中心市街地活性化などに取り組んできた専門家も、震災や空襲といった大規模なまちづくりの経験や知見はない」とし、いつ発生するか分からない災害に対して平時から備える必要性を訴えた。
 その上で「専門家は都市をゾーニングし、最短距離で最適化した回答を示すが、そこで生活する住民の目線は違う。専門家は単なる新しい空間を再生産するのではなく、空間に人々のこだわりや思いを加える活動を支援するべきではないか」と語り、専門家には「空間の提案ではなく、地域で味わう物語を提案する」役割があると力を込めた。
建設通信新聞(見本紙をお送りします!)

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