2014/09/19

【記者座談会】各学会とも市民・社会・他分野への連携と知見の活用が課題

A ことしも9月には、学術団体の大会が各地で開かれたが、どんな特徴があったの?
B 建築学会は神戸市での開催だったから、阪神・淡路大震災と東日本大震災を比較したり、それぞれの震災を分析する発表やプログラムが多かった。
A そういえば、来年で阪神・淡路大震災から20年だ。
(写真は建築学会の大会会場)

B 東日本大震災では、自治体職員の初動対応や避難所の設営などに阪神・淡路大震災の経験が生かされていた。例えば、避難所や仮設住宅を地域ごとに設けたのが有効に機能していたみたい。ただ、仮設住宅が抱える不十分な機能性や劣悪な居住性といった問題については、なかなか教訓が生かされていないという問題も浮き彫りになった。
A 何が原因なんだろう。
B 建築学会の抱える知見を一般社会に活用する方法が確立していない面はあると思う。震災を受けて実施された調査内容の適切なデータベース化だけでも進める必要があるといろいろな研究発表で繰り返し指摘されていた。
C 学会の課題はそうだろうが、仮設住宅はあくまでも仮設だからビジネスになりにくい。たまたま東日本大震災では長期化せざるを得ないから機能や居住性が問題になるが、もっと防災・減災をしっかりするとか、災害復旧や復興を迅速にすることの方が本筋だ。そもそも長期滞在型の仮設住宅というのは、自己矛盾だと思う。
B 建築学会大会の取材で思ったのは、東日本大震災についての研究発表はまだ仮設住宅が抱える問題点の指摘や復興まちづくりの紹介といった個別事例を対象とした内容にとどまっていること。東日本大震災全体を深掘りして総括するような研究には、もう少し時間が必要のようだ。
A さてもう一方、土木学会の全国大会はどうだった?
B 今回は100周年記念の大会だけあって、学会側も力を入れていた。来場者数も延べ2万人を超え、大盛況だった。特に、急きょ開催を決めた広島豪雨災害合同緊急調査の報告会では、多数のマスコミや一般来場者が多く立ち見が出るなど注目度の高さをうかがわせた。
C 全体討論会や研究討論会、100周年記念討論会などは、新しい土木学会の将来ビジョンを意識した内容が多く、学会と会員が、市民や多分野と連携して社会のさまざまな課題にアプローチしていく必要性を指摘する声が多かった。言い換えると、「土木」という学問分野に閉じこもる「たこつぼ型」の専門家が増えていることへの警鐘と感じた。「土木」は、経済や人間関係なども含めた社会のあらゆることに通じていると土木界の一人ひとりが意識し、ともすれば情緒的な判断に流されがちな社会に対し、工学的アプローチで課題解決策を提示する役割が求められていることを強調したいのだろう。
A 建築、土木と来れば、設備関係の大会だが。
D 電気設備学会が仙台市で8月28、29の両日、空気調和・衛生工学会は秋田市で9月3日から5日と、いずれも東北地方での開催だった。
A 特徴は?
D 電気設備学会は、東北支部が20周年にあたり、また東日本大震災の復興を祈念するという意図から仙台市開催になった。初めて取材したが、200件を超える発表論文があり、活発な雰囲気だった。一方、空衛学会は委員会の成果などを報告するワークショップの概要もプログラムに掲載して見える化し、関心を集めた。人材の確保やBCP(事業継続計画)についても、論文の発表が歴代2位だった前回とほぼ同じ660件あり、今日的テーマだと改めて痛感した。
建設通信新聞(見本紙をお送りします!)

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