震災前、国内有数の水揚げ高を誇った宮城県石巻市の水産物地方卸売市場石巻売場(石巻魚市場)は、津波で建屋の多くが流失した。地域経済を支える水産業の基盤施設の早期再建に向けて国内の公共建築では初のアットリスク型CM(コンストラクション・マネジメント)方式による事業が展開されている。石巻魚市場建設事業のCMR(コンストラクション・マネジャー)を務める鹿島の岡野春彦所長(現場代理人兼監理技術者)にこれまでの取り組みを聞いた。
まちのシンボルとも言える石巻魚市場は、震災4カ月後の2011年7月に仮設市場で競りを再開したが、現在も震災前に比べ数量で約7割、金額ベースは8割程度の回復にとどまる。再建に当たっては、漁獲物の海外輸出も視野に入れ、付加価値を向上させるために全国的にも珍しいという全棟HACCP(危険度分析重要点管理方式)対応の閉鎖式高度衛生管理型施設として整備する。
規模はS造平屋一部4階建て延べ4万7498㎡。上屋根の長さは日本一だった旧施設の1.4倍となる880mで東洋一を誇る。沖合・近海など漁業種別に3棟を5工区に分割して順次供用させながら、15年6月の全体完成を目指す。
各段階で事業承認が必要な通常の発注方式では、完成まで10年程度かかる規模という一大事業をわずか3年で完成させるため、市は民間の高い技術力・施工能力を早い段階から活用するアットリスク型CM方式の導入を決断。アドバイザーの漁港漁場漁村総合研究所に基本構想や基本設計、CMR選定業務などを委託して準備を進めた。
◆CM協ガイドブックを活用、資格も取得
公募型プロポーザルでCMRに選ばれたのが鹿島だ。岡野所長が「実施設計から計画通知提出までの期間がタイトだった」と振り返るように13年8月の契約後、鹿島から横河建築設計事務所に実施設計業務が発注され、3カ月後の11月には初弾の東・中1工区が着工している。
今回のアットリスク型CMは、通常の設計・施工一括発注方式に似ているが、特別条件として「オープンブック(原価開示)方式」と「専門工事業者の選定承諾」「周辺関連工事との調整業務」が求められている。
「この現場を担当するまではCMという言葉もよく分からなかった」と語る岡野所長だが、日本コンストラクション・マネジメント協会が発行するガイドブックを参考に技術提案書を作成しつつ、並行して同協会の認定コンストラクション・マネジャー資格を取得して、現場に乗り込んだ。
発注者との事前ルールづくりでは、CMを導入する際の課題とされるオープンブック資料の作成・確認作業について「すべてを事前承認制にすると、承認願いだけで1000件ほど提出する必要があった」ため、事前承諾範囲を直接工事費と資機材材費が1000万円(税込み)以上に限定。発注者と受注者それぞれの負担となる膨大な事務量を軽減させた。業務フィーは10%で、VE提案は価格が低下した場合に認定され、業務費用見込額との差額の50%がインセンティブとして支払われる仕組みだ。
◆岸壁復旧工事も並行施工エリア探し合う
また、特別条件にある周辺工事との調整も業務の大きなウエートを占めた。「敷地が引き渡されない状況での着工だった」というように、同一敷地内では水産庁発注の重力式岸壁復旧工事(施工=五洋建設)も展開しており、「日々の連絡調整会議に参加するなど、互いに施工できるエリアを探しながら進めた」という。
さらに77mの鋼管杭を打設する際は、五洋建設から出来形図を入手し、岸壁工事で新設された横方向のタイロッドの位置を確認しながら進めた。相互の協力関係で、発注者を介さずに現場の課題解決のスピードを早めた。
このような施工調整の中で行われた東・中1工区は着工当初から、台風や高潮のたびに地震で沈下した敷地周辺が冠水。クレーンによる屋根作業は、強風を避けるため、朝なぎの早朝に始め、風が強まる午前9時ごろには終了する工程を組むなど厳しい自然条件の制約を受けながら進められた。2月には大雪で作業できない日もあったが、最盛期には1日400人が作業に当たり、8月上旬には仮設市場に代わって目新しい市場で初競りにこぎ着けた。
岡野所長は、アットリスク型CMによる建築工事を「資材価格や労務費が上昇する中、決められた予算内で、高品質な建物を工期中に完成させるため、震災からの復旧・復興事業に有効な手法だ」ととらえる。「われわれCMRにもリスクはあるが、回避方法を考えながら日々現場を動かしている。後に続くこうした取り組みのための使命感もある」。新たな復興事業方式の試金石として注目されるこの事業の成功に意欲を示す。
建設通信新聞(見本紙をお送りします!)
まちのシンボルとも言える石巻魚市場は、震災4カ月後の2011年7月に仮設市場で競りを再開したが、現在も震災前に比べ数量で約7割、金額ベースは8割程度の回復にとどまる。再建に当たっては、漁獲物の海外輸出も視野に入れ、付加価値を向上させるために全国的にも珍しいという全棟HACCP(危険度分析重要点管理方式)対応の閉鎖式高度衛生管理型施設として整備する。
鉄骨を建てている横に漁船が係留されている現場 |
各段階で事業承認が必要な通常の発注方式では、完成まで10年程度かかる規模という一大事業をわずか3年で完成させるため、市は民間の高い技術力・施工能力を早い段階から活用するアットリスク型CM方式の導入を決断。アドバイザーの漁港漁場漁村総合研究所に基本構想や基本設計、CMR選定業務などを委託して準備を進めた。
◆CM協ガイドブックを活用、資格も取得
岡野春彦所長 |
今回のアットリスク型CMは、通常の設計・施工一括発注方式に似ているが、特別条件として「オープンブック(原価開示)方式」と「専門工事業者の選定承諾」「周辺関連工事との調整業務」が求められている。
「この現場を担当するまではCMという言葉もよく分からなかった」と語る岡野所長だが、日本コンストラクション・マネジメント協会が発行するガイドブックを参考に技術提案書を作成しつつ、並行して同協会の認定コンストラクション・マネジャー資格を取得して、現場に乗り込んだ。
発注者との事前ルールづくりでは、CMを導入する際の課題とされるオープンブック資料の作成・確認作業について「すべてを事前承認制にすると、承認願いだけで1000件ほど提出する必要があった」ため、事前承諾範囲を直接工事費と資機材材費が1000万円(税込み)以上に限定。発注者と受注者それぞれの負担となる膨大な事務量を軽減させた。業務フィーは10%で、VE提案は価格が低下した場合に認定され、業務費用見込額との差額の50%がインセンティブとして支払われる仕組みだ。
◆岸壁復旧工事も並行施工エリア探し合う
また、特別条件にある周辺工事との調整も業務の大きなウエートを占めた。「敷地が引き渡されない状況での着工だった」というように、同一敷地内では水産庁発注の重力式岸壁復旧工事(施工=五洋建設)も展開しており、「日々の連絡調整会議に参加するなど、互いに施工できるエリアを探しながら進めた」という。
鋼管杭打設前の試掘 |
8月上旬には初競りが行われた東・中1工区 |
岡野所長は、アットリスク型CMによる建築工事を「資材価格や労務費が上昇する中、決められた予算内で、高品質な建物を工期中に完成させるため、震災からの復旧・復興事業に有効な手法だ」ととらえる。「われわれCMRにもリスクはあるが、回避方法を考えながら日々現場を動かしている。後に続くこうした取り組みのための使命感もある」。新たな復興事業方式の試金石として注目されるこの事業の成功に意欲を示す。
建設通信新聞(見本紙をお送りします!)
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