東京都と首都高速道路会社が共同で整備を進める中央環状品川線は、外径が12m超にも上る大断面シールドを約8㎞にわたって一気に掘進する日本最大級のビッグプロジェクトでシールド技術の発展に大きく寄与した。都庁内外に「大深度地下を活用する東京外かく環状道路(関越~東名)の整備にも結びつく技術が確立した。シールド技術の転換期になった」という声も上がる。長距離掘進を実現するシールド技術の原点として語り継がれるであろうプロジェクトだ。
先が見通せないほどの長距離 |
開通すれば供用済みの新宿線と合わせて、総延長18.2㎞の日本最長の道路トンネルが完成する。
開通は2014年度末。五反田出入口(首都高施工)と南品川換気所(東京都施工)の避難路接続工事で出水が発生したため、13年度末としていた当初の開通時期から1年延長することになったが、「シールド内部に不具合が生じたわけではない。(シールドトンネルと)出入口や換気所との接続工事など難工事が残っているのは事実だが、床版工事を含めて(トンネル内は)13年度中にほぼ車が走行できる直前の状況までこぎつけられる。設備システムの総合調整を経て、14年度末に開通することになる」(水谷正史第二建設事務所品川線建設担当課長)という。
「開通は延期になったが、われわれには(出水リスクに対応できるだけの)蓄積してきた知恵やノウハウがある。仮に何かトラブルが起きたとしても、それを克服して完成させる、その一心だ」と意気盛んだ。
地上へのアプローチ部 |
本線となる全長約8㎞のシールドトンネルは、都が発注した大井行本線シールドトンネル(施工者=大成建設・大豊建設・錢高組JV)と首都高の大橋行本線シールド(鹿島・熊谷組・五洋建設JV)はともに12年3月までに掘進を完了している。都心の地下空間を進んだ2本のシールドは、12mという外径を持つ大断面でありながら、約3mの離隔で並行して掘り進められた。
水谷課長は「常に近接施工になる中で、(先に掘り始めた大橋行本線シールドに)影響を与えないよう、徹底した計測管理のもとで細心の注意を払いながら施工した」と話す。
都側のシールド工事は、07年1月に公告していったんは仮契約を結んだものの、防衛施設庁談合事件の影響を受けて仮契約を解除、約1年遅れでの再公告、契約となった。工期の遅れも懸念されたが、技術提案型総合評価方式の採用で大幅な工期短縮を実現、シールド機のビットを段違いに配置することで、仮に先頭のビットが欠けても、次のビットが土を掻く強化型先行ビット(高低差配置)や二重ビットなど、過去のシールドトラブルを踏まえた、大成JVの技術提案は超高速での掘進を可能にした。
「トラブルを未然に防ぐ工夫は最終的な工期短縮につながる。また、セグメント(1ピース)が国内で最大の幅となる2mと大きいため、組み立ての回数が減る。これも高速化を実現する要素になった」と振り返る。
発注者である都建設局が道路整備にシールドトンネルを採用したのは初めて。外径12m以上の大断面シールドとしては前例のない約8㎞に及ぶ長距離の掘進は、「(都建設局にとっても)ノウハウの蓄積につながった」とも。
上下線の離隔は3メートル程度 |
かつて、交通局に在籍していた際に大江戸線を整備した経験を持つ水谷課長は「(交通局では)基本的に駅部分は開削で駅間をシールドで構築するため、シールドトンネルそのものはここまで長くならない。例えば、五反田換気所付近に立坑をつくって2分割する方法もあったと思うが、時間と費用がかかる立坑を途中個所につくらず、これだけの大断面、延長を一気に掘削したことは、今後に大きな意味を持つのではないか」とみる。
経験工学と言われる土木分野は、経験値こそが技術の確立につながるとされる。「(請負者は)今回のデータをフィードバックして、強みを伸ばし、工夫を凝らし、技術力を高めていくはず」と語るように、品川線の整備が国内のシールド技術の発展、特に大深度長距離掘進技術の確立に向けた礎になることは言うまでもない。
大井行本線シールドを担当した大成JV、大橋行本線シールドを担当した鹿島JVに蓄積されたノウハウは、今後、シールドトンネルによる整備が見込まれる東京外かく環状道路(関越~東名)やリニア中央新幹線といったビッグプロジェクトに間違いなく継承されることになる。
建設通信新聞(見本紙をお送りします!)2013年5月24日
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