2013/05/01

【現場最前線】世界初 新幹線直上 高架橋で重層化 神田の東北縦貫線工事

東日本旅客鉄道(JR東日本)は20日未明、東京~上野間約3.8㎞を対象とする東北縦貫線の工事で、移動式架設機械を使う最後で最長のPC桁を一晩で一括架設した。新幹線直上の600m区間に新線の高架を建設して重層化するなど、高度な技術と厳重な施工管理が求められる世界的にも例のないプロジェクト。営業線に近接する制約条件の多い過酷な環境下で安全を最優先に緻密で繊細な施工に努めている。2008年5月の工事着手から無事故・無災害を継続している、鉄道建設史に刻まれる一大事業を紹介する。



◇新幹線直上に高架橋

 事業区間は既存施設を改良する線路改良部(東京~神田間約0.9㎞、秋葉原~上野間約1.6㎞)と神田駅周辺約1.3㎞を対象とする高架橋新設部となる。高架橋新設部は新幹線直上に高架を建設する重層部約0.6㎞に加え、その前後の上空で交差する首都高速道路都心環状線や総武線の高架橋に支障しないように約35パーミリの急勾配で高架橋を新設・改良するアプローチ部(計約0.7㎞)で構成する。施工は秋葉原付近~上野間の北部工区を鉄建、東京周辺~神田付近の南部工区を鹿島が担当している。

◇トロリー線間隔は数10㌢

 南部工区の神田駅付近は在来線と東北新幹線が並行して走行している。このため、新たな用地確保が困難なことから、新幹線直上に東北縦貫線の構造物を建設して重層化する難工事の区間となっている。具体的には既設の東北新幹線高架橋(鋼ラーメン構造物)に設けた仕口部に新たな鉄骨部材を継ぎ足し、東北縦貫線の構造物を構築している。下部工は橋脚・橋台各8カ所で、橋脚・橋台のほとんどは新幹線軌道内からクレーン車で吊り上げ、東北新幹線のトロリー線の間を通しながら架設した。橋脚・橋台は1基につき最大約30個のピースに分かれており、終電から始発までの作業時間の制約から1日に1個ずつの架設となった。トロリー線との間隔が数10cmとなる場所もあり、針穴を通すような、繊細で熟練したクレーン操作などが求められた。

PC桁をガーダーで吊り降ろす(吊り降ろし前)
吊り降ろし後

◇PC桁約6500㌧!

 桁架設は10年12月から開始。架設数量はPC桁が17連約6500t、鋼桁が2連約720tで、高さ約20m、長さ約200m、総重量約1800tの国内最大級となる特注の移動式架設機械を使い、東京駅方から架設してきた。施工手順は東京~神田駅間の在来線と東北新幹線との間に位置する東京方アプローチ区間の高架橋の一部に作業ヤードを設け、工場から運搬したプレキャストセグメントを高架橋上で組み立てる。その後、組立完了したPC桁を走行ガーター上に移動。吊ガーダーで桁を吊り上げ、走行ガーダーを前方に移動させ、桁と吊ガーダーを一緒に降下させて桁を架設・据え付けた。据付完了後、架設機はPC桁上を移動し、次の桁架設に入る。このサイクルを繰り返し、鋼桁2連も同じ方法で架設した。

◇国内最大級の移動式架設機導入

 移動式架設機械による最後の桁となった今回の秋葉原方アプローチ部も同様の手順で架設。当日は桁下の靖国通りを全面通行止めにし、作業員約80人、交通誘導員約90人ら総勢約170人を動員。午前1時から工事を開始し、長さ約40m、重さ約510tのPC桁を所定の位置まで約6.5m降下させて仮受け固定し、4時前には作業を完了させた。

◇JR東日本東京工事事務所の柳沢則雄東北縦貫線プロジェクト担当課長の話

 絶対に止めてはならない新幹線の軌道内に大型重機を入れて行う工事で、とても緊張を強いられるプロジェクトだ。作業員や職長さんも自分が風邪をひいて作業が遅れると困ると考え、自発的に夏でもマスクをするなど、責任感の強い素晴らしい方々が現場に従事している。
 限られた時間内で安全に施工ができるように作業サイクルを考慮した作業計画を作成している。鉄骨架設時にはクレーンや台車などが故障すると、列車運行を妨げることになるため、動力を二重系にするなど、故障時のバックアップ体制を確保しているほか、営業線の列車運行に必要な設備、レール、信号設備、電車線などの防護処置も施した。
 終電後の夜間作業が多いため、防音シートや低騒音機械を使用した防音対策も徹底しており、工事内容などが変わるたびに、その具体的な内容などを周辺に周知している。
 移動式架設機械による最後の桁架設を終え、今後は防音壁、軌道、電気工事、試験運転を実施するが、当社としても京浜東北・山手線の混雑緩和、乗換利便性向上、南北ネットワークの強化に向け、引き続き無事故・無災害で事業を進め、14年度の開業を目指していく。

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