2013/05/06

【現場の逸品】躯体に置くだけの手軽さ! 外断熱の熱橋防止部材イソコルブ

「省エネ部材でありながら、構造機能も兼ねている」と力説するのは、ショックジャパン(東京都中央区)の坪沼和充氏だ。ドイツ建材メーカー、ショック社の日本法人である同社は4年半の歳月を費やし、構造ユニット「イソコルブ」の一般構造評定を日本建築センターから取得した。海外では外断熱建物の熱橋防止部材として世界35カ国に出荷しているが、日本では現行の建築基準法に合わせるため、乗り越えるべき技術的な課題がいくつかあった。

◇外断熱に必須の熱橋防止

 RC造の外断熱建物では、バルコニーや庇部分から室内の熱がコンクリート躯体を伝わり逃げてしまう熱橋現象の防止が技術的な課題となっている。バルコニー部分の設計荷重は1m幅で1t近くに達する。構造支持方法も含めた場合、熱橋を根本的に遮断することは難しい。バルコニーを完全に外断熱材で覆う対策では意匠性が損なわれ、コストも大幅にアップしてしまう。
 30年前から熱橋対策に取り組むショック社の中でも、イソコルブは代表的な商品で、ドイツなど欧州を中心に35カ国に出荷し、これまでにバルコニー長さにして延べ1200万mの採用実績を誇る。海外で普及する背景には、構造ユニットを躯体の梁部分にセットし、あとは通常どおりにコンクリートを打設するだけという施工の手軽さにある。

◇バルコニー付け根に設置

 イソコルブは、厚さ80mm、幅1mの断熱材から左右に一定間隔で鉄筋が1.2mほど突き出している。これを躯体とバルコニー部の付け根に設置する。施工後は断熱材が躯体の中に埋め込まれる形となり、コンクリートを伝って熱が外部に出ていくことを防ぐ仕組みだ。ユニット左右に突き出た鉄筋を通して熱が伝わらないように、ステンレス筋と鉄筋を特殊溶接した「ステンレス鋼材」とすることで熱伝導を遮断する。
 同社は10年ほど前から日本での販売を検討してきたが、断熱材から鉄筋に至るまですべてをドイツの工場で生産しているため、素材はJISに認定されていない。現行法では認められないパーツもあり、日本で売り出すには多くの部分で大臣認定を取得する必要があった。
 せん断補強筋を固定する圧縮材「HTEモジュール」は繊維補強モルタルだが、日本では構造材としてモルタルの使用は認められない。耐震設計のレベル要求が高いことから、鉄筋部に2m間隔で特殊部材を設置する耐震性能向上の対策も必要となった。ステンレスと鉄筋を特殊加工で接合する「ステンレス鋼材」については設計図面に表記する際、一般的に呼ばれている“ステンレス鉄筋"の名称では不適合を受けてしまうため、あえて名称を変えた。

◇ようやく構造評定を取得

 海外に目を転じれば、9割もの熱損失を防げるイソコルブは熱橋防止の代表的な商材の1つ。日本ではようやく構造評定の取得によって採用の道筋が整った。販売価格は1ユニット当たり3-5万円。既に採用案件も複数あり、13年度はバルコニー長さで1000mの受注を目指す。日本法人の石井登社長は「既に老人ホームや医療系施設から引き合いがある」と手応えを口にする。
建設通信新聞(見本紙をお送りします!)2013年5月1日

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