2014/08/18

【木材利用促進】全国では82%が方針策定! 一方で首都圏は低迷

公共建築物等木材利用促進法の施行から4年近くが経過した。全国的に公共建築物の木質化が進められ、木材利用の促進に向けた方針などを策定した市町村(計1742市町村)は7月末現在で82%になった。しかし関東甲信8県の平均策定率は約69%。特に埼玉、神奈川、千葉は30%台にとどまっている。さらなる利用促進を目指して国は、建築基準法の改正や各種制度の見直しに動き出しており、今後は大型施設などへの広がりが見込まれる。関東甲信地区の現状を追った。写真は関東最大級の木造校舎である守谷小学校。


 国は国産木材の需要拡大を目指して、2010年10月に「公共建築物等における木材の利用の促進に関する法律」を施行。以来、各都道府県で取り組みが本格化し、関東甲信8県では同年12月に県産材利用方針を公表した長野県を皮切りに策定が進み、神奈川県を最後に全県が同様の方針などを策定した。 


全国で始めてS造と木造のハイブリッド構造を採用した春日部市の東部ふれあい拠点
■平均策定率は69.5%

 現在は市町村による方針などの策定に拡大し、林野庁が公表した7月31日現在の策定状況によると、長野県、栃木県、山梨県の3県は全市町村が策定を終え、策定率は100%。茨城県も91%まで進捗した。
 残る4県のうち、群馬県は54%の自治体が策定したが、埼玉、神奈川、千葉の3県は30%台にとどまる。このほかに30%台に低迷している都府県は、全国でも沖縄県の2%、東京都の11%、大阪府の35%だけ。東京を含め、30%以下の6都府県のうち半分以上が首都圏に集中している。この結果、関東甲信8県の平均策定率は69.5%と全国平均の82%を大きく下回る。

耐火木造の柱と梁を採用した国内初の大型商業施設であるサウスウッド
■市町村への浸透に苦慮

 関東甲信地区で30%台の県に話を聞くと、「限られた土地面積で建物が高層化するために難しい」など技術的側面や「地域に産業がない」「新しく整備する公共施設が減少する中で策定する必要を感じていない」などの市場環境の課題が挙げられ、県も市町村レベルの浸透促進に苦慮している状況がうかがえた。
 この中で農林水産省と国土交通省はことし1月に開いた「公共建築物における木材の利用の促進に関する関係省庁等会議」で、木造化や木質化の事例は増えつつあるものの、まだまだ取り組みが不十分という認識で一致した。
 国交省は現在、耐火構造などの課題に対応し、建築基準法(木造建築基準)の見直し作業を進めている。関東甲信各県の導入基準は、おおむね低層で延べ3000㎡以下に木造の採用を定めているが、建築基準法の改正内容では、耐火構造以外の木造建築物でも延べ3000㎡を超える規模の建設を可能にすること、構造計算適合性判定の合理化、新しい材料や技術の円滑な導入などが考えられている。また文部科学省も新たな木造校舎の構造設計標準を設け、15年4月からの適用開始を予定している。
 首都圏の建設業者にとっては、発注機関(市町村)が同方針などを策定していないこともあり、木造建築物に対する意識は高まっていないだろう。しかし国の木造建築基準の見直しによって、対象施設が拡大するほか、新しい建築材料や構造方法の利用促進策など、市場環境は大きな変化が生み出されてくる。今後、木造建築物への対応は公共事業で必須の課題となることが予想される。
建設通信新聞(見本紙をお送りします!)

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