2014/08/19

【子どもの村東北】市民・企業・地域が支える「家」に建築家が奮闘

震災によって親を失った遺児や孤児は、岩手、宮城、福島3県で241人にのぼる。その多くは親族に引き取られたが、育ての親の高齢化が進むなど課題も多い。こうした中、里親制度を活用して家庭的養育の場を提供しようという「子どもの村東北」の建設が、2014年内の開村を目指して仙台市郊外で進められている。育親(里親)を専門家チームや市民・企業・地域が支える、新しいかたちでの社会的養護の取り組みを、日本建築家協会(JIA)東北支部の復興支援委員会(松本純一郎委員長)が施設づくりの面から全面的にバックアップしている。写真は建設中のセンターハウス。

飯沼理事長
子どもの村東北は、世界133カ国で活動しているNGO「SOS子どもの村」の理念に基づき、NPOこどもの村東北(理事長・飯沼一宇東北大名誉教授・石巻赤十字病院名誉院長)が震災などによる孤児や遺児など社会的養護を必要とする子どものための施設を同市太白区茂庭台に整備・運営する。

松本純一郎氏
プロジェクトを統括するマスターアーキテクトを務める松本純一郎氏は、「SOS子どもの村のガイドラインで、建物は地域に溶け込んだ建築とするよう定められている」と語る。そのため、地域の建築家と工務店が協働し、地元の建材を使うことが推奨されているという。
 計画では、中核施設となるセンターハウスと、里親と児童が暮らす5棟の「家族の家」で構成。センターハウスは木造平屋建て497㎡の規模で、オフィスや会議室、多目的ホールのほか、“村長”とアシスタントの居室などを設ける。

針生承一氏
センターハウスの設計に当たった針生承一建築研究所の針生承一氏は、「町並みのような建物をイメージした」とし、「カスケードと呼ぶ大通りと虹のような屋根が一番の特徴」と設計のポイントを説明。8カ所の出入り口を設けることで「開放的な建物として地域の人にも積極的に利用してほしい」と期待を寄せる。

2階建ての家族の家
家族の家は、5棟のうち平屋建てのA棟と2階建てのB棟の建設が進む。ともに設計はSOYsource建築設計事務所の安田直民氏が担当。中央のリビングを囲むように居室を配置し、天窓からの採光と自然通風という特徴を持つ。「復興住宅と同じ枠組みで、住宅性能や省エネなどの基準をクリアするよう考えた」と安田氏。

安田直民氏
これら3棟の施設は、ことし3月に着工し、6月下旬にはいずれも上棟を迎えた。施工はセンターハウスが鎌内工務店(宮城県多賀城市)、家族の家2棟はともにセンケンホーム(仙台市)。7月末現在での進捗率は約60%で、10月下旬の完成を目指す。残る家族の家3棟のうち、鈴木弘人設計事務所が担当したE棟は、三光不動産(秋田市)の支援・協力のもと、同社の施工でまもなく着工する予定だ。
 このプロジェクトには、多くの企業から支援や協力が寄せられている。センターハウスは競輪とオートレースの振興法人であるJKA、子どもの家A棟はイケアジャパン、B棟は日本小児科医の会がそれぞれ建設資金などを提供。このほか、サッシや暖房器具など建材の多くは現物寄付や採算を度外視した低廉な価格で建材メーカーなどから提供されており、「さまざまな企業からの協力がなければ(プロジェクトは)成り立たなかった」(安田氏)とJIAのメンバーも一様に謝意を示す。
 一方で、現場を担う技術者・技能者不足や資材価格の高騰もあり、建設資金約2億7500万円のうち、約4500万円がいまだ不足しているという。飯沼理事長は「企業や個人の寄付や支援に頼らざるを得ないだけに、引き続き協力をお願いしたい」と呼び掛けている。


◆「家庭的養育」提供する新たな仕組み
 NPO子どもの村東北は、世界133カ国で活動を展開している国際NGO・SOS子どもの村の趣旨に賛同した関係者が集まり、12年6月、飯沼一宇東北大名誉教授・石巻赤十字病院名誉院長を理事長に設立された。国内では福岡に次いで、2例目となる。
 震災で親を失った子どもたちを始め、さまざまな事情で家族と暮らせない子どもたちを愛ある家庭環境と専門的な支援のもとで、永続的に養育していくことを目的とする。
 主な活動は、▽里親制度を活用した家庭環境での子どもの養育▽社会的養護を必要とする子どもや家族の支援▽社会的養母を必要とする子どもたちと、その養育家庭を支える長期的支援の仕組みづくり--など。特に児童養護施設などの「施設養育」が中心となっているわが国で、「家庭的養育」を提供していく新しい仕組みとして注目される。
 中核施設のセンターハウスでは、児童相談所、里親会と連携した「里親サロン」の開催や、子どもの「一時預かり」「相談」「家庭訪問」などによって、里親や被災した子どもとその家族を支援していく。
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