2012/03/01

これまで語れなかった「建築コスト」の建前と本音とは?! 建築学会が踏み込んで議論

 日本建築学会の建築社会システム委員会建築コスト小委員会(岩松準主査)は2月24日、東京都港区の同学会会議室でワークショップ「建築コストのタテマエ・ホンネを語る」を開いた。同小委員会がまとめた冊子『建築コスト七不思議Q&A(第1版)』の執筆陣が内容を説明。それを踏まえてパネルディスカッションした=写真。

◇一般の人にはわからない建築費の内訳

 説明・発言したのは、橋本真一、伊藤一義、岩松、大島和義、磯部正、木本健二、楠山登喜雄の7氏。
 パネルディスカッションで橋本氏は、「われわれは発注者が技術者であることを前提にしている。しかし、一般の人たちは内訳書をみて理解できるか。分かりなさいという方が無理。欧米のQS(積算士)などが介在するようにならないと、いつまでたっても建築費はわけが分からないということになる。エンドユーザーにコストが正確に伝わらなければならない」と問題提起した。
 伊藤氏は、「今回のQ&Aは、プロジェクトの進捗、時間の中で工事費、コストを説明できるための情報としても活用してほしい。また、たとえばLCC(ライフサイクルコスト)を考えた場合、工種別の内訳書ではすぐに活用できない。部分別の内訳書の活用が広がればと思う」とした。
 大島氏は問題意識の一つとして、「日本には、元請けにも下請けにも、誰もが認める下請経費の単価表がない。こうした中で、CMやオープンブックは本当にできるのだろうかと思う」との考えを提示。また、磯部氏は、予定価格や調査基準価格の今日までの流れなど、第2版で新たに書き加えたいと考えている事項を説明した。
 木本氏は、「BIMの広がりの中で(設計事務所では)基本設計段階での概算見積もりが重要になってくるし、そこでは複合単価・合成単価が重要になってくる」との方向を示した。

◇生で語れなかった領域に踏み込む

 楠山氏は学会の姿勢について、「かつて、建築学会ではコストを生で語ることができず、議論するのは難しかった。しかし、学会なのだから建築コストの本来あるべき姿を議論すべき」と提言した。
 建築学会では、建築コスト学術研究会(1993―94年)が、建築コストの実態が分かりにくい状況を踏まえて、その疑問点を「建築コスト7不思議」として15項目64点にまとめている。今回、同小委員会では、その64点をたたき台に、その後の制度や事情の変化を加味しながら建築コストにかかわる現時点の問題を7項目39点に再編、解決の方向を提示した。
 内容は、▽プロローグ(「建築コスト七不思議」とは)▽コストとプライス(回答した問題数3)▽コストの算出、標準化(同5)▽コストの差異、変動(同6)▽コストコントロール(同5)▽予定価格と監査、評価(同7)▽契約・発注方式と建築コスト(同6)▽コストの内訳(同7)▽エピローグ▽付録(建築コスト関連用語)――などで構成する。

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