設計施工一貫プロジェクトの5割にBIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)を導入している大成建設。東京都千代田区で施工中の淡路町二丁目西部地区再開発事業は、他社設計の案件でありながら本格適用を実現している事例の一つだ。解体から着工に至る4カ月余りの時間を有効に使い、モデル作成など導入基盤を整えた。着工から2年が経過、現場ではBIMの“恩恵”を受け始めている。
◇データに仮設情報も
BIM基盤の構築は、2009年11月の解体着手から10年3月の工事着手までの間に行った。プロジェクト規模は13万㎡に達するが、同社子会社TASPlan(本社・フィリピン)が中心となり、わずか2カ月で意匠と構造の3次元モデルを完成させた。建築本部技術計画部の建築生産システム推進担当として現場のBIM支援を行っている日部恭宏氏は「基本データに仮設情報も入れ、施工計画の詳細な検討にも取り組んだ」と振り返る。
同社では本社を軸に、各支店にも建築生産システム推進担当を置き、全社的な現場のBIM支援体制を構築している。まとめ役を担う技術計画部次長の伊藤正比呂氏は「モデル作成、支援体制、そして現場のデータ共有というBIM導入のインフラを整えている点が当社の強み」と明かす。協力会社との情報共有に活用している自社クラウドシステム『作業所Net』が、BIM現場のデータ共有も下支えしている。
BIMモデルには形状、位置、時間、数量などの情報を組み入れ、施主サイドにパースとして見せる際には質感情報なども付加した。「BIMの成功は、データをどう使うか、その目的をはっきりさせることが重要で、それを怠れば逆にBIMが負担になってしまう。この現場はモデル活用の方針を明確に決め、実行したからこそ、実際その成果をもたらしている。他社設計案件でも本格的なBIMは実現する」(伊藤氏)。
仕上げ情報までBIM化 |
◇仕上げ材もCG化
「施工の検証は最初からBIMモデルの中で行わず、どんな工法にすべきか、具体的な方向性を固めた上で、モデルに反映するやり方を心掛けている」とは八須智紀副所長。このように設計と施工を分離したプロジェクトでは、社内の技術支援部隊が最適解を現場にアドバイスするケースも少なくない。それを現場がBIMで最終検証する。
設計者に意匠面の提案を行う際には、仕上げ材をCG(コンピューターグラフィックス)化するなどBIMの効果を最大限に発揮している。エントランス部分とエレベーターホールについては、素材情報も組み入れたデジタルモックアップを作成。数パターンを用意、照明シミュレーションも導入し、よりリアルな空間検証が可能になった。
40階を超える北街区の本体棟では、オフィスエリアと住宅エリアが切り替わるトレンチフロアが構造面でも施工面でも難易度の高いポイントだった。複雑な立体トラス構造となり、2次元図面では詳細な納まりの検証が難しく、事前に配管のルートも厳密に定める必要があった。設計者とは、鉄骨のジョイント部分も含めて情報を共有してきた。
現在の現場は、トラス部分のパネル仕上げを作業中。以前の現場でトレンチ階の施工に頭を悩ました苦い経験を持つ八須副所長は、「今回は事前に検証できたことが大きかった。配管の干渉もほとんど見られず、手戻りもなく、順調に作業が進められている。BIMの効果にほかならない」と実感している。
日々の現場運営にもメリットが見え隠れしている。心掛けているのは、協力会社に設計イメージを伝える手段としてのBIM活用だ。特に設計と施工を分離しているプロジェクトだけに情報伝達が強く求められる。「イメージして検討できることがBIM最大の魅力。これは安全面でも大きなインセンティブになっている」(八須副所長)。
◇淡路町二丁目西部地区再開発事業
▽建設地=東京都千代田区神田淡路町2丁目地区内▽発注者=淡路町二丁目西部地区市街地再開発組合▽設計=佐藤総合計画▽施工=大成建設▽規模=北街区は地下3階地上41階建ての本体棟など総延べ12万9,181㎡、南街区は地下1階地上8階建て延べ3,701㎡▽工期=2009年11月-13年6月▽主な使用ソフトウエア=Revit Architecture(オートデスク)
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