2012/03/05

伊東豊雄氏が「合掌造り」の集合住宅! 釜石市の復興計画に提案

伊東氏の「合掌造りの家」模型
 東日本大震災で被災した岩手県釜石市の復興計画で、アドバイザーを務めた建築家の伊東豊雄氏は、「斜面の家」や「合掌造りの家」など安全性と共同体を強く意識させる集合住宅を提案、住民から高い評価を得ている。海の近くに住んで漁をしたいという漁師や、隣近所だった人と一緒に住みたいという高齢者などの声に応えるアイデアとデザインが、こうした住民の評価につながった。ほかにも商店街、学校、市役所、桜並木の土手(マウンド)などまちづくりのいくつかのエレメントをまとめて昨年12月、市民公開の場で提案した。伊東氏は「事務所の若手らと一緒に、ほかの仕事をしながら1カ月ほどでまとめた」と集中的に取り組んだことを振り返る。提案のいくつかは実現される可能性が高い。


◇コンクリ擁壁の上に建設

 釜石市は震災後、復興プロジェクト会議を設置して、まちづくりの基本計画を検討、昨年12月に計画をとりまとめて解散した。伊東氏は、小野田泰明東北大大学院教授の推薦で、同会議のアドバイザーを務めた。昨年5月から月1、2回のペースで東北を訪れ、地元住民の声に耳を傾けてきた。そうした中で、伊東氏と事務所スタッフが考え、イメージしてきたことをビジュアルにプレゼンテーションしようと決め、市の計画としてオーソライズされてはいなかったが昨年12月、住民公開の場で提案した。約100人が集まったという。
 提案したのは市の中心部である東部地区と鵜住居(うのすまい)地区。東部地区では、魚市場に近い東浜と呼ばれるエリアで主に漁師を対象にした「斜面の家」を提案した。
 これは、平地が少ない釜石市で何とか海に近い場所で住居を確保しようと考えたもので、山の斜面に沿うように建つ集合住宅だ。このエリアの山の斜面には、もともとコンクリートの擁壁があり、ここに造ることで武骨な擁壁が隠れると同時にその補強にもなる。1棟が十数戸から30戸程度の集合住宅としては小規模なもので、2階から上を居住スペースとした。

街区の模型
◇1階には「みんなの家」も設置

 伊東氏は「2戸程度ごとにベランダの部分を縁側にして、昔の農家みたいに縁側から自由に行き来できるような造りを考えた。間には共用のスペースも設ける。海の近くで建てることができる『斜面の家』を漁師の方に話すと、これができたらありがたいとみんなに言われた」と手応えを語る。市もこの提案には前向きだという。
 斜面の家を原型にして考えたのが「合掌造りの家」だ。斜面の家を向かい合わせに組み合わせた。「一緒に住んでいた人たちとまた暮らしたいというお年寄りが多い。そういう人たちがここに集まって暮らしてもらえればと思う」。1階には駐車場と「みんなの家」を設置する。構造はRC造だが、外壁は木組みにする。東部地区の中心部に考えており、「釜石市の新しい風景として提案をさせてもらった」と伊東氏は語る。ここも大きくても30戸程度の規模としている。
 鵜住居地区では、中心部に津波で被災した小中学校を再建するアイデアを提案した。山を少しカットして、盛土をすることで、中心部に建築できることを紹介。好評だったという。同地区では防潮堤を兼ねたラグビースタジアムも提案している。ほかにも工場を再利用した商店街、市役所、桜並木のマウンドなど、いくつかのデザインを描いた。
 伊東氏は「建築家は社会に必要とされているのだという、名誉回復のチャンスでもあると思い、若手スタッフらとできる限りのことをさせていただいた」と話す。


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