2012/03/07

せんだいデザインリーグ卒業設計日本一決定戦 『神々の遊舞』が1位に

今泉絵里花さん(東北大)の『神々の遊舞』
 建築系学生による国内最大規模の卒業設計コンクールとして知られる、「せんだいデザインリーグ卒業設計日本一決定戦」。10回目を迎える今回は全国109校から631点の応募登録があり、450作品が提出された。東日本大震災を経てのコンクールとあって、震災復興をテーマとした作品も多く、仙台市内で5日に開かれた最終審査では伊東豊雄氏ら審査員が「震災以後」の建築をめぐる状況を反映した議論を展開。建築に求められるリアリティーや思想の切実性、設計者としての説得力と責任感、また建築空間を組み立てていく上での普遍性や公共性といった観点から、最終的には津波被災地の伝統芸能を引き継ぐ場とともに地域の交流空間を創りだすことを提案した今泉絵里花さん(東北大)の『神々の遊舞』が「日本一」に輝いた。「日本二」は同じく地元東北大の松井一哲さんの『記憶の器』、「日本三」は吉川由さん(早大)の『技つなぐ森』だった。

 卒業設計日本一決定戦は、仙台を中心に建築を学ぶ学生有志でつくる仙台建築都市学生会議が03年から開催。10回目となる今回は全国の大学と専門学校あわせて109校から631点の応募登録があり、作品提出は450点だった。
 3日にせんだいメディアテークで行われた予選審査では、小野田泰明東北大大学院教授ら仙台建築学生会議アドバイザー10人の投票などで、セミファイナル進出作品101作品を選出。4日に開いた10周年イベント「前夜祭プレゼンテーション大会」を挟んで、5日午前中に行われたセミファイナルでは、ファイナル審査員も加わり投票と協議で上位10作品を選定した。
 川内萩ホールに会場を移して行われたファイナル審査のメンバーは、委員長の伊東豊雄氏(伊東豊雄建築設計事務所)、塚本由晴氏(アトリエ・ワン、東工大大学院准教授)、重松象平氏(OMA)、大西麻貴氏(大西麻貴+百田有希)、櫻井一弥氏(SOYsource建築設計事務所、東北学院大准教授)の5人。
 日本一を決める議論では、ファイナル10作品の中に震災関連4作品、中国人留学生2作品が残り、震災とグローバリゼーションを中心に議論が進む中、伊東氏が「東日本大震災以降、建築にはリアリティーと思想の切実性が必要だと考えている」と強調。大西氏は「切実さと誠意のある作品が響く」とし、櫻井氏も「震災をテーマとする作品は、リアリティーのあるものしか残っていない」と、この意見に同調した。


当日の様子

◇普遍性と公共性が評価

 重松氏は「いま建築家には、ストーリーをつくり提案するという建築家の職能が試されている。震災感情を抜きにしても、説得力と設計者としての責任感ある作品を推したい」と語った。
 塚本氏は、伊東氏と同じ作品を推しつつ「伊東さんが震災以降に話している“建築家は変わらなければいけない”という話はシンボリック過ぎる。以前の卒業設計にも地道で誠実な取り組みはあった」とした上で、「今泉さんの無形の祭りを通して建築空間を組み立てていくという提案には普遍性と公共性がある」とし、満場一致で今泉さんの作品が日本一に決まった。
 『神々の遊舞』は、津波被災地の宮城県石巻市雄勝地区大浜の無形重要文化財・雄勝法印神楽を行う舞台装置を提案。移転先となる山と非可住エリアの浜をつなぐ空間に長さ382mの水平の板を渡し、その中に地域の伝統的な木造建築の舞台を取り込むことで、600年間続く地域の行事を引き継ぎつつ、人々の交流空間の創出を提示した。
 講評の中で伊東氏は、「人が集まる場所を自然な形で表現できている。地元の人が喜ぶという、わたしが『みんなの家』でやりたかったことにつながる」と高く評価した。 このほか、奨励賞には塩原裕樹さん(大阪市立大)の『VITA-LEVEE』、張昊さん(筑波大)の『インサイドスペースオブキャッスルシティ』、西倉美祝さん(東大)の『明日の世界都市』の3点が選ばれた。


『卒業設計日本一決定戦OFFICIAL BOOK―せんだいデザインリーグ2011』 AmazonLink

Related Posts:

  • 【山嵜一也の書を読み海を渡れ(19)】都市に内在する時間という癖を読み解く キングクロス駅地上コンコース ロンドン中心部、テムズ川南岸部その名もサウスバンク。この街の発展は著しい。その口火を切ったのがミレニアム事業の一つであるテートモダン。レンガ造りの煙突がシンボリックな旧火力発電所を現代美術館へと改修した。エネルギーを生み出す場所から文化を生み出す場所へ。この街では古さと新しさの意外な組み合わせが建築と都市空間の化学反応を引き起こす。 英国の産業を支え、役目を終えた他の発電所も改修されている。ロンドン東部のワッピ… Read More
  • 【続報!】白亜の寺院「新宿瑠璃光院白蓮華堂」 設計の竹山氏に聞く 1階部分が極端にくびれ、2階部分から大きく膨らんだ形状、ホワイトコンクリート打ち放しの外壁、不規則に並んだ小さな窓。東京・新宿駅に隣接するオフィス街の一角に、独特のデザインが目を引く寺院「新宿瑠璃光院白蓮華堂」が完成した。【執筆者から:奇抜なデザインに目が向きがちですが、ディティールへのこだわりゆえか新宿のビル群のなかに屹立する様子は周囲のまちなみにとけ込んでいます。近寄るほどに細部へのこだわりに気づかされる印象的な建築でした】 … Read More
  • 【伊東豊雄】プリツカー賞受賞の伊東氏にインタビュー 伊東豊雄氏が、“建築界のノーベル賞"と称される国際的な建築賞「プリツカー賞」を受賞した。伊東氏は日本建築学会賞作品賞(シルバーハット、せんだいメディアテーク)、毎日芸術賞(八代市立博物館)、芸術選奨文部大臣賞(大館樹海ドーム)、日本芸術院賞(同)、高松宮殿下記念世界文化賞、王立英国建築家協会(RIBA)ロイヤルゴールドメダル、ヴェネチア・ビエンナーレ国際建築展金獅子賞(日本館)など、国内外から高い評価を得ているわが国を代表する建築家の一人。米… Read More
  • 目の錯覚を建築に埋め込む タトアーキテクツの島田陽氏 『山崎町の家』 撮影:鈴木研一  「外から見た印象どおりの建物だと面白くない」。島田氏の建築は、騙し絵に似た『目の錯覚』のような印象を与える。「昔から人の『認識』に興味があり、常に多義性を意識して設計している。見る人の意識を操作することで設計が多様になる」。事務所名である「タトアーキテクツ」の「タト」も、横書きにすれば「外」に見える。  そういった「意識の操作」は、見た目の奇抜さや遊び心だけではない。農村地帯に建つ『山崎… Read More
  • 【BIM】常識疑う「NBF大崎ビル」 日建設計の山梨氏に聞く 北東側に設けられた簾のようなルーバーは雨水を利用してヒートアイランド現象を抑制する「バイオスキン」の技術を使用。周辺環境への配慮も含めた高い環境性能を確保したことに審査員も賞賛 1949年の設置以来、時代を画した数多くの優れた建築を表彰してきた日本建築学会賞作品部門。今回は日建設計の革新的なオフィスビル『NBF大崎ビル(旧ソニーシティ大崎)』、ゼネコン単独の設計としては約50年ぶりとなる竹中工務店の『明治安田生命新東陽町ビル』、篠原聡子氏… Read More

0 コメント :

コメントを投稿