2012/03/26

「除染失敗にも備えるべき」飯舘村で『避難村』プロジェクト 糸長浩司日大教授が提唱



プランの概要
  福島第一原子力発電所の北西40㌔ほどに位置する福島県飯舘村。地域特有の固い結束力を生かし、地道に築き上げてきた“大いなる田舎”は、従前とは違う静けさに包まれている。原発事故から1年余。原発立地による恩恵もなく、ただ害だけを被った人々は、いまも不自由な生活を余儀なくされている。「一番辛い思いをしている人たちに、いつまで仮設生活を続けさせるのか」。村の未来への道しるべともいえる行政総合計画づくりを始め20年来、飯舘を支援してきた日本大学の糸長浩司教授(環境建築家)は憤りを隠さない。「何千億円もの税金を使って、除染がうまくいくとは限らない。除染ありきではなく、温かい暮らしができる安全な場所への移住など、別の選択肢を持っておくべきだ」と力説する。

糸長教授
 土地の方言で、じっくり、ゆっくり丁寧に、を意味する『までぇな』をテーマに村づくりを進めてきた。金銭的な豊かさはないが、みんなで協力し合い、楽しみながら、自然との共生を実践してきた。数年前にはチップボイラーを使った老人ホームや、交流の場となるエコハウスも完成し、集積データをもとにした研究などを始めた矢先のことだった。
 発災当初、飯舘村に関する情報は少なく、放射線に関するデータがそろいだしたのは4月に入ってから。情報公開を巡り、村と村民の間に緊張関係が生じ出したのもこのころだ。
 いまになって、原発周辺の双葉町や大熊町などで、町外に「仮の町」をつくる案が浮上してきたが、糸長教授は「時期尚早とも言われたが、4月には線量の低いところに避難村をつくるべきだと村に求めてきた」と振り返る。「全国数カ所から引き受けるという声をもらっていた」ものの、結局実現には至らなかった。

◇移住も選択肢のひとつ

 シンポジウムや聞き取り調査を通じ、「村民の中には帰村ではなく、新しい場所を望む意見も多い」ことが分かった。「2、3年で日常生活に戻ることができないのは明白。冷たいと言われようと、われわれ専門家は、第三者として移住も提案しないといけない。被災者の感情に寄り添うだけではだめだ」と自らにも言い聞かせる。
 村は3222億円を投じ、2年で住宅、5年で農地、20年で森林を除染する計画を打ち出したが、「村域の75%は森林で、並大抵のことではない。例え木を切り、山を削っても、今度は水害に対する不安が出てくる」など一筋縄にはいかない。
 標高の高い西部から除染し、そこに300世帯のスマートビレッジを築く構想もある。だが、避難に伴い分離・分散し、2700世帯(1000世帯増)に膨らんだ村民全体の生活再建には、到底対応できない。

◇『までぇな避難村』プロジェクト

 糸長教授は、村外のより安全な場所に移住する『までぇな避難村』プロジェクトを提唱。再生可能エネルギーなどを組み込んだ村のスマートビレッジ構想について、「ハード面はいいが、場所が望ましくない」とし、「もっと数値の低いところに、避難村を積極的につくるべきだ」と訴える。ばらばらになった避難村や移住地を「通信ネットワークでつなぎ、バーチャルな村を構築する」プランも描く。
 「二重住民票」の必要性も強調する。「例えば、飯舘村と移住先に半分ずつ住民税を納める。そうしないと移住した人が、税金も払わないで居着いているという目を向けられ、そこに居づらくなる可能性が出てくる」と指摘する。「史上にない大災害なら、かつてない政策を打つしかない。制度はいくらでも変えられる。それが人間の知恵だ」と説く。
 建設業界に対しては、「仮の町の建設には、災害復興公営住宅や防災集団移転促進事業といった国土交通省の制度活用が想定されるが、農業や教育も含めたパッケージ型の移転事業を建設業関係者から提案してほしい。ゼネコンは、ゼネラルコーディネーターとして建設以外の仕事をもっと手掛けるべきだ」と提起する。
 また、英国の都市再生事業に用いられている分野横断的で、複数年にわたる予算措置「SRB」のような制度も効果的と見ている。


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