2016/06/24

【働きかた】女性は「ライフイベント」が鍵 東畑建築事務所の永田久子設備設計室長


 東畑建築事務所の永田久子設備設計室長が6月1日付で執行役員に昇格、同事務所初の女性執行役員が誕生した。設備設計者としてのキャリアを重ねる一方、設備技術者協会(JABMEE)の「設備女子会」など、事務所の外でも女性エンジニアが働き続けることのできる環境づくりにも携わってきた。執行役員就任に当たっての抱負に加え、女性技術者が直面する結婚や出産といった「ライフイベント」と仕事の両立はどうあるべきかなども聞いた。

 業務の現状について「リノベーションの仕事がかなり伸びている」ことから、大規模改修などの需要に的確に対応することが求められていると説明する。環境面においてはバイオマス空調を全面的に取り入れた真庭市庁舎(岡山県)など、先進的な取り組み実績も持つ。こうした強みも生かしながら2015年6月からスタートした東京・大阪・名古屋・九州の4事務所を一体化させる「オフィス制」のもと「地域特性を打ち出したチームプレー」を理想像に描く。
 現在同事務所の設備技術者数は40人ほど。この規模を維持しつつ「少数精鋭主義」で対応する。「設備技術者としてこれまでも『調和のものづくり』をモットーに取り組んできた。(執行役員としての)緊張感はもちろんあるが、あまり気負わず自然体でいきたい」とも。
 東畑建築事務所で働く女性社員の数は35人、このうち20人が技術者という。「女性エンジニアの数は今後間違いなく増える」と話す一方で、「(社員の)男女割合が同じくらいにまでなるとはまだ思わない」とも。ネックとなるのが「ライフイベント」の存在だ。女性にとっては結婚や出産を機に仕事を辞めない生き方ができるか否かがかぎとなる。
 永田氏自身、2人の娘を育てながらキャリアを積んできた。22年前に長女を出産し「事務所で初めて育児休暇を取得した」草分けでもある。「育休を取得したことで、かえって仕事を辞めにくくなってしまった」と笑う。「当時の上司が理解ある人で、弾力的に対応してくれたことが大きい。同僚はもちろん、事務所のおおらかな社風に助けてもらった」とも。職場復帰後子連れ出勤したこともあったと振り返る。パソコンや携帯電話といった「お助けマシーン」の普及も、仕事を続ける一助になった。10年前に次女を出産した時には「育休取得は普通のこと」になって時代の変化を実感したという。
 JABMEEの設備女子会では近畿支部の運営委員を務めている。昨年秋には初のイベントを大阪で開催したがパネルディスカッションのテーマがまさに「ライフイベントをどう乗り越えるか」だった。設備女子会の活動を通じ改めて感じたのは、ひとくくりにできない個々の事情があるということ。「業種の違い、企業の規模、あるいは職場が東京にあるか大阪にあるかなど、置かれた環境は一人ひとりまったく違う」。だからこそ「スキルや状況に応じ、就業規則などを柔軟にカスタマイズしていく職場ごとの取り組みが重要になる」と強調する。

 1990年9月京大大学院工学研究科修了、同年9月東畑建築事務所入所。2010年6月設備部長、15年6月設備設計室長を経て6月1日付で現職。好きな言葉は『まあるい笑顔で、ふわふわ言葉』。仏教の和顔愛語(わげんあいご)が由来だとか。笑顔を絶やさず、相手に対する思いやりを忘れないコミュニケーションを心掛けているという。愛知県出身、50歳。
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