2014/05/22

【新国立競技場】伊東氏の改修案提示は何をもたらすか!?【記者コメ付き】

伊東氏が提案した国立競技場改修案「バックスタンドを残したメーンスタンド建替え増設2段案」のイメージ。スタジアムを西方向に拡張し、神宮外苑の景観を維持しながら低コストで必要な席数を確保するものとなっている
「いまが、21世紀に何を残すかを示すラストチャンスだ」。建築家の伊東豊雄氏は12日に東京都渋谷区の津田ホールで開かれたシンポジウム「新国立競技場のもうひとつの可能性」の中でそう強調した。7月に国立競技場の解体工事着工が迫る中、新国立競技場を始めとした競技場施設整備のあり方を巡る議論は今も続く。今後、建築の専門家はいかに公共建築・まちづくりにかかわるべきなのか。動向を追った。
【執筆者からのひとこと:一般紙的な視点では、デザインや費用の話にスポットが当たりがちです。一方建築という視点で報道するわれわれが感じるのは、都市計画上の手続きや情報公開、景観についての議論といった「プロセス」こそが、大切になってくると思います】

シンポジウムで改修案を示した伊東豊雄氏(左)
シンポジウムの中で、伊東氏は国立競技場の改修案を提示した。スタジアムを西方向に拡張し、神宮外苑の景観を維持しながら低コストで必要な席数を確保する提案で、明言は避けながらも現行案に必要な予算の「おおよそ半分くらい」の額で実現できると述べた。ただ今回の改修案はあくまで「実際に新国立競技場コンペに参加した人間の視点から、個人的に良いと思う改修案を示したに過ぎない」と述べ、他の建築家が改修の可能性を探るきっかけであると力を込めた。
 今回、批判にさらされることを承知しながらも改修案を提案した背景には新国立競技場の詳細を明らかにしない不十分な情報発信に対する不信感がある。
 「コンペから1年半が経ちながら、新国立競技場が一体どのような施設なのかまったく国民に知らされていない。公共建築のコンペであれば市民の前で設計内容を発表し、市民からの意見を反映させながら設計を進めるのが当然のはず」と強調。その上で「新国立競技場の良さを示す情報が一切出てこない。可動式天井の維持コストや芝生養生のコストなど難しいアイデアがあるのに、それについても国民と議論せずに進もうとしている」と強い懸念を示した。

◆模索を続ける建築家

 「建築」の問題に関して、「建築家」の職能団体がなんら行動しなければ、建築家が社会の中でその存在価値が認められることはますます難しくなる--。日本建築家協会(JIA)の関東甲信越支部世田谷地域会(小林正美代表)が提出した要望書をきっかけに、JIA関東甲信越支部(上浪寛支部長)は9日に「東京オリンピック・パラリンピックにどう関与すべきか」をテーマとする会員集会を開き、白熱した議論を展開した。

JIA関東甲信支部が開催した会員集会。上浪支部長(左から2人目)と芦原会長(同3人目)
芦原太郎JIA会長は「決して新国立競技場に反対するものではない」とした上で、新国立競技場について「一番の問題は相手が見えないということ。誰がリーダーシップを持って舵(かじ)を取っているのかが分からない」と指摘。要望書の提出にとどまらない具体的な「次の一手を打つ必要がある」と語った。
 その上で、1つの例としてロンドン五輪の施設計画・整備で大きな役割を果たしたまちづくり機構(CABE=Commission for Architecture and the Built Environment)のような建築アドバイス機構の必要性に言及。五輪競技施設の整備において発注者による説明や情報公開を実施、それに対し専門家が意見する体制を早急に構築する重要性を提起した。
 また、集会には新国立競技場コンペに参加した建築家の仙田満氏も出席し、「プログラムの詳細が分からない不透明な状況で進むシステムそのものに対してJIAが発言する必要がある」と指摘した。今後、日本においてスピードと質が両立する公共建築整備を進めるため、JIAがCABEに類する制度でコンペをサポートする必要があるとも強調した。

◆何を残し何を変える

 「日本を変えたい、と思う。新しい日本をつくりたい、と思う。もう一度、上を向いて生きる国に。そのために、シンボルが必要だ」という書き出しで、新国立競技場国際コンペの応募要項は始まる。国立競技場の解体工事、大型競技施設の着工が目前に迫る中で、21世紀に何を残し、何を変えるべきなのか。残された時間は少ないが、未来を見据えた専門家の知見が求められている。
建設通信新聞(見本紙をお送りします!)

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