2014/05/20

【復興版】被災者が暮らしを選べる再建を 東北工大新井准教授に聞く【記者コメ付き】

新井信幸准教授(東北工業大学大学院工学研究科建築学専攻)
震災から3年2カ月が過ぎ、新たな生活と向き合いつつある被災者が増える一方、制度の矛盾などに翻弄(ほんろう)され、足踏み状態にある被災者も多い。仙台市沿岸部の荒浜と三本塚地区、内陸部のあすと長町応急仮設住宅団地の住民を支援している新井信幸東北工大准教授は「いまの復興は行政主導型で、自由度が低い。被災者への負担も大きく、支援内容にも格差がある」と指摘。その上で、「住民と行政が真に協働し、豊かさを探る“プロセス重視型”の生活再建支援を目指すべきだ」と訴える。
【電子メディア局から:仙台市若林区の荒浜地区では、災害危険区域の指定により住民が住めなくなり、行政と住民の軋轢が生まれています。復興は本当に一筋縄ではいかないものだな、と感じます。この記事では〝対話〟を通した復興について書いています】
 津波で多くの家屋が流出した同市若林区の荒浜地区は、2011年12月に条例で災害危険区域に指定され、居住用建物の新築や増改築が禁止された。新井氏は「私権を制限する大きな決定が、市議会の議決だけで決まった。少なくとも都市計画審議会を開くなど、もう少し議論が必要だったのではないか」と条例制定までのプロセスを問題視する。
 同地区に戻りたいと願う住民有志は「荒浜の再生を願う会」を組織。帰還を目指して活動を展開しているが、市側は説明責任を果たすものの、計画変更の相談や検討には応じないという。一時は住民から行政訴訟を起こそうという動きもあったが、「完全に対立するのではなく、対話の中から戻れる道を見つけたい」と模索を続ける。
 荒浜よりも内陸に位置する三本塚地区は当初、災害危険区域に指定される予定だったが、津波シミュレーションの結果、指定の対象外となったことで、震災前に住んでいた世帯の約7割が戻る見通しだ。ただ12年1月から現地再建に向けたワークショップを開催しているが、思うように再建は進んでいない。
 「親戚のように結び付きが強い」という同地区では、10世帯程度が地区内のより安全な場所への移転を希望しているが、同一地区内での移転には公的な助成が適用されないため、暗礁に乗り上げているという。「道路を1本隔てるだけで支援に大きな格差があり、被災者の中に不公平感が生まれている」と支援のあり方に疑義を差しはさみつつ、拡充を求める。
 また、仙台市南部の副都心に位置付けられるあすと長町地区の応急仮設住宅団地では、仮設住宅から復興公営住宅に移行する過程でのコミニュティーデザインに取り組んでいる。住民とのワークショップの中から、仮設団地で育ったコミュニティーを継承する仕掛けを盛り込んだコレクティブハウスを計画。同団地内の駐車場を敷地として、仙台市の買取方式による復興公営住宅整備事業にも応募した。
 市からは、一部の被災者の意見を反映させるのは公平性に欠けると指摘され、採用には至らなかったが、支え合いながら暮らすという意識をより高めた住民とともにワークショップを継続。周辺3地区の復興公営住宅に分かれた後も仮設で育んだ共助型のコミュニティーを維持する方策を探っている。
 新井氏は、「いまの復興は、被災者支援ではなく被災地支援になっている」と、幅広い選択肢の中から、被災者自らが選べる、より自由度の高い生活再建の必要性を指摘する。さらに「海辺や農村で豊かに暮らせることは、高い価値を持つ」と強調し、「災害危険区域指定の解除や条件付き居住などを認めることがあってもいい」と、震災から3年が過ぎた今だからこそ、地域が抱えるリスクと向き合いながらも安全と暮らしのバランスを見据えた積極的な見直しを訴える。
建設通信新聞(見本紙をお送りします!)

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