2014/05/11

【建設論評】早期復旧を遂げた三陸鉄道の抱える課題

東日本大震災で壊滅的な被害を受けた岩手県の三陸鉄道(三鉄)は、北リアス線がことし4月6日、南リアス線が1日前の5日に全線復旧し、震災前と同じ総延長107.7㎞の全線で運転を再開した。3年1カ月ぶりの全線開通は、地域住民の悲願と復興の象徴であるが、人口減少の中で三鉄は厳しい経営と向かい合う。

 「復興の象徴」を守ろうと全国各地から支援の輪は広がるが、地方鉄道が抱える「採算性のバランス」の課題を背負っているからだ。三鉄は1984年に第三セクターの鉄道として誕生した。当時を振り返ると乗客数は200万人を超えたとされる。しかしその後、過疎化や車の普及で乗客数は激減し94年以降は赤字が続いていた。
 大津波で橋や駅、線路など317カ所が被災し、乗客数は2013年度に50万人となり、NHKの「あまちゃん」効果で前年よりも増加したものの、震災前の6割にも満たない。
 震災復興が遅れ人口流出が続き、高台移転により車の利用も増えることが予想されるほか、南リアスと北リアスをつなぐJR山田線の復旧の見通しが立っていない。
 三鉄の復旧は、鉄道建設・運輸施設整備機構が施工監理を請け負い、通常の工事よりもハイスピードで早期開通を図った。「陸の孤島」と呼ばれた鳥越地区(海近くまで山が迫る)での、駅周辺の盛り土工事は、軟弱地盤の改良に用いる土木用繊維(ジオテキスタイル)で土砂を包み、それを積み上げていく独自工法を適用した。南リアス線釜石駅近くの高架橋では、激しい揺れで継ぎ目がずれ橋脚も破損したが、仮設橋脚で橋桁を支えながら、元の位置に橋脚をつくり直した。
 鉄道技術の粋と鉄道エンジニアの魂、地域の絆が、三鉄の早期復旧を成し遂げたと言っても過言でない。しかし、三鉄は第三セクターとして運営され、岩手県・宮古市・大船渡市・岩手銀行や国などが支援や補助金を出してきた。運賃収入のみでは営業赤字を補てんできず、補助金抜きには経営が成り立たない。00年からは車両や建物などの設備を借り受け、いわゆる上下分離方式で運営し、固定資産税は支払いが困難のため沿線各市町村から寄付を受ける形でやりくりを行って運営されてきた。そのような経営環境の中での震災と復旧なのである。
 三鉄は、復興のシンボルとして地元住民や鉄道ファンからの熱望により復旧したが、経営基盤の脆弱(ぜいじゃく)な地域鉄道を運営・維持し、地域の交通体系の中でどのように位置付けるのか、存在理由を問われることにもなりかねない。だから課題を抱える多くの第三セクターの鉄道や経営基盤の弱い民間鉄道の関係者は固唾(かたず)をのんで見守っている。三鉄の甫嶺駅の近くの盛り土は、津波を跳ね返し線路の内側にある集落を守った。
 地域の鉄道は多くの課題を抱えるが、防災・減災に対する防御建造物ともなり得る。経営の視点のみでなく多面的視点から、地域鉄道を守る意志力がその地域の住民だけでなく、すべての国民に求められているのではないか。 (栄)
建設通信新聞(見本紙をお送りします!)

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