半透明のテントが1階から3階までをすっぽりと包む(撮影:平野太呂) |
「単身者向けの賃貸住宅を考える時、狭小敷地で個別の部屋に風呂・台所があるのは不合理。新しい建築空間として『シェア』という考え方を提案した」と篠原氏は語る。クライアントからは入居者ニーズがあるのかを不安視する声もあったが、「単身者の調査や最近の動向からニーズを確信していた」という。
その一方で、入居後の運営については「どうなるのか分からない面もあった」とも。居住者によって住まい方が大きく変わるため、設計に当たっては「ゆるく使える」ことを重視した。「いまの住宅は『現在』の状況や機能に合わせ過ぎている。本来、住宅は人間よりも寿命があるはずで、住みながら住民がカスタマイズしていけば良い」と強調する。
内村綾乃氏(左)と篠原聡子氏 |
こうした住民同士のコミュニケーションの重要性が高いだけに、建築の側面からも積極的な対話を生み出す工夫が求められた。篠原氏は「人間関係のあり方と建築のあり方は不可分」と語り、各々の部屋が内部に閉じない空間で、外部の入り込む余地があるよう設計したという。
1階のワーキングスペース。入り口のファスナーを開放することで外部に開かれた空間となる |
こうした住民同士の開かれた関係は、「SHARE yaraicho」と外部との関係にも呼応する。篠原氏は「住宅とは本来、社会的な空間を内包するもの」とした上で「いまのように、住宅が外部から閉じこもってしまった都市は楽しくない。住宅が農家の土間のように社会に対し半ば開かれた空間を持ち、場合によってはふと立ち寄れる空間が欲しいと思っていた」と語る。入り口のファスナーを開放し、1階のワーキングスペースを利用したパーティーなどを開催することも多い。
現在、単身者を中心にシェアハウスのニーズが高まっている。その理由は「情報」「コミュニケーション」「経済性」とさまざまだ。篠原氏は「いま、都市に住むことが新しいフェーズに入ってきた」とした上で「これまで『家族』か『施設』しかなかったが、『シェア』というコンセプトが第3の選択肢として成熟した日本社会の中でニーズを持っているのだと思う」と分析。内村氏も「シェアハウスに住むと、通常の友人とも他人とも違う距離感になる。個を重視する時代が続いた結果、ひとりではなく、家族とも違う住まい方が求められていると感じる」と語った。
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