2014/05/01

【BIM】常識疑う「NBF大崎ビル」 日建設計の山梨氏に聞く

北東側に設けられた簾のようなルーバーは雨水を利用してヒートアイランド現象を抑制する「バイオスキン」の技術を使用。周辺環境への配慮も含めた高い環境性能を確保したことに審査員も賞賛
1949年の設置以来、時代を画した数多くの優れた建築を表彰してきた日本建築学会賞作品部門。今回は日建設計の革新的なオフィスビル『NBF大崎ビル(旧ソニーシティ大崎)』、ゼネコン単独の設計としては約50年ぶりとなる竹中工務店の『明治安田生命新東陽町ビル』、篠原聡子氏(空間研究所)と内村綾乃氏(A studio)によるシェアハウスの新たな試み『SHARE yaraicho』と、特色ある受賞作が選ばれた。設計に込めた思い、そして今回の受賞を踏まえた今後の取り組みなど受賞者に聞いた。トップバッターは日建設計設計部門代表の山梨知彦氏。

 JR大崎駅に隣接した大規模オフィスビル「NBF大崎ビル」では、日建設計から山梨氏、羽鳥達也氏、石原嘉人氏、川島範久氏の4人が受賞した。BIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)の利点を生かした建築であり、審査員からは「既成概念にとらわれない合理的な創意工夫がなされている」とオフィスビルとしての革新性が高く評価された。
 NBF大崎ビルでまず目を引くのは、北東側に設けられた簾(すだれ)のようなルーバーだ。このルーバーには雨水を利用してヒートアイランド現象を抑制する「バイオスキン」の技術を使用しており、周辺環境への配慮も含めた高い環境性能を確保。審査員から称賛された。「僕らにとってデザインは表面が格好いい、見たことがないということではなく、技術的に新しいことに挑戦し、それが表現になることを目指している。そこを取り上げ評価してもらったことはうれしい」と率直に喜びを語る。

ワークプレイスの利便性を最優先するとともに、南西側の壁面に凹凸を生じさせて周辺の中小規模建築との調和を生み出した




設計にあたっては、まず無柱で四角いワークプレイス約3000㎡を確保し、それを支えるエレベーターなどを南西側に配置。クライアントの要望だったワークプレイスの利便性を最優先するとともに、南西側の壁面に凹凸を生じさせて周辺の中小規模建築との調和を生み出した。
 「四角いビルに必要な機能を押し込める従来のオフィスビルは施主の要望を受け入れられない不自由なデザイン」とした上で、「要望を切り捨てるデザインではなく、設計者としての考えも施主の思いもフレキシブルに取り入れる欲張りなデザイン」を目指したと振り返る。
 4面とも同じデザインであることが合理的とされるオフィスビルの常識を疑い、新たなオフィスビルのあり方を提案した背景にあるのがBIMの活用だった。
 「環境を重視する時代になり、オフィスビルは環境性能、事業性、省エネ性能などが求められる。プロジェクトの関係者が増加し、たくさんの人々と協力する必要が出てきた」と語り、関係者とのコミュニケーションツールとしてBIMの重要性が高まっている現状を指摘する。
 「天才的な建築家であれば、建築家の信念や勘を働かせてデザインの妥当性を確信することができる。しかし、天才ではない多くの建築家には2次元のスケッチだけで施主の要望や環境性能のすべてを満たしているかどうかは分からない」からだ。
 そこで大きな役割を果たしたのが、コストやデザインのアイデアを素早く検証し、クライアントに掲示する装置としてのBIMだった。

山梨知彦氏(日建設計設計部門代表)
「2次元の設計図の利点は夢が広がることだが、それぞれが勝手な夢を見ていることがある。3次元で描けば、身勝手な想像は許されない代わりに正確に状況を把握できる」と強調する。
 BIMで試行錯誤したリアリティーのあるデザインを掲示することで手戻りをなくし「天才的ではない建築家も、確信を持ってクライアントを説得できる」とも。
 設計に際しての最初の直感を理性のふるいにかける中でデザインが生まれる。BIMはそのデザインの合理的な説明を支えていた。
 受賞作をオフィスビルの集大成とする一方でBIM活用の点ではあくまで「デザインの検討や施工図の精度を高めたりシミュレーションに使用するためのツール」であり、それを使いこなす「最初に一歩」と位置付ける。
 受賞を踏まえた今後の取り組みについては「BIMという視点でみたらキックオフ。もっとBIMの成果を生かし切った、データベースとしての成果も生かした建築でも賞を取りたい」と意気込む。
建設通信新聞(見本紙をお送りします!)

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