2014/05/12

【サンドバイパス】国内初! 河口の堆積砂を浸食海岸に移す一石二鳥の技術

架設桟橋から斜杭を打設
毎年150ha以上の国土が海岸浸食によって失われている。静岡県・太田川の河口にある福田漁港は、土砂の堆積に悩みを抱えている漁港の1つ。河口側の航路に土砂が堆積するため定期的に浚渫しなければならない一方、漁港を挟んだ潮流の下手側、浅羽海岸は浸食される。こうした課題を解決するために投入されたのが日本初の「サンドバイパスシステム」だ。堆積する土砂を吸い上げて、浸食する海岸に砂を送る。静岡県が発注し、五洋建設などが施工を進めた。

 サンドバイパスシステムは、オーストラリアのカルドノ社が保有する技術。県は2003年8月から学識者らによる委員会を設置して検討を進め、採用を決めた。従来の浚渫・運搬に比べ、ライフサイクルコストを低減でき、環境にもやさしいからだ。海に突き出した桟橋を整備し、そこに設置した4基の「ジェットポンプ」が砂を吸い上げ、ポンプ場を経由して2.2㎞離れた海岸に送り出す。年間約8万m3の土砂を移動させる計画となっている。
 五洋建設はカルドノ社と技術協力の提携を結んでいるものの、実際に施工するのは初めてだ。作業船を使った海洋土木工事が同社の強みだが、今回の施工には作業船を使っていない。砂の堆積によって水深が浅く、船を使えなかったのだ。このため仮設桟橋を設置してからの本施工となった。
 採砂桟橋の施工では、鋼管杭の打設が難関の1つだった。五洋建設の盛英工事所長は「これまでに取り組んだことのない工法だった」と振り返る。桟橋の右手側は斜杭となっているが、一定の傾きを保持しながら打設しなければならない。このため、H形鋼で構台を整備した上で施工に臨んだ。一方、打設精度を確保するためのシステムも導入し、オペレーターは画面上に表示される打設角を見ながら杭を打ち込んだ。盛所長は「施工精度はかなり高い」と自信をのぞかせる。

ジェットポンプを設置した採砂桟橋
一方、風が強く、うねりが出やすい気象条件も悩みの種だった。海底土砂内に設置するジェットポンプを施工する際も、台風の影響を受けて一筋縄では進まなかった。
 日本初のシステムだが、輸入したのはこのジェットポンプのみ。他の設備はすべて国内で調達している。今回のプロジェクトを通じて得られたのは、施工面でのノウハウだけではない。システムの制御・運用といった面での実績作りも大きい。システムの調達や制御などを担った船舶機械部の岡田英明担当課長は「日本初のシステムだけに制御や設定が非常に悩ましかったが、ノウハウを蓄積でき技術者としても勉強になった」と話す。

2.2キロ離れた海岸に砂を送り出す
3月に完成したサンドバイパスシステムは現在、試験運転を進めており、今後各種データを収集する予定だ。同じく海岸浸食に頭を抱える他の自治体も関心を示しているという。
建設通信新聞(見本紙をお送りします!)

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