2014/05/16

【建築】丹下健三の初期代表作「香川県庁舎東館」を耐震化・保存

丹下健三の初期の代表作として知られる「香川県庁舎東館(旧本館・旧東館)」の保存に向けた機運が高まっている。昨年夏には丹下の生誕100周年プロジェクトとして展覧会などの多様なイベントも実施され、わが国が世界に誇る近代建築の傑作に、改めて国内外から耳目が注がれた。同館1階には、この展覧会で制作された模型や収集した資料を利用した建築ギャラリーがことし3月下旬から常設展示されている。県が設置した学識者らによる検討会議(会長・岡田恒男東大名誉教授)では東館の保存・耐震化に向けて、「基礎免震構法を軸として、耐震工法の具体的な検討を進めることが望ましい」とする提言を2月に浜田恵造知事に答申。県はこれを受けて、2014年度から具体的な検討作業を本格化させる。
 【電子メディア局から:日本の建築は、まだまだ何百年も使い続けるという発想が少ないと思います。木造のものの方がはるかに残っているのは、コンクリートという素材が経年劣化に弱いからでしょうか?】



 香川県庁舎東館(RC造8階建て延べ1万2035㎡)は、県議会議場や県民ホールを含む本館として建設が計画された。丸亀市出身の画家・猪熊弦一郎の助言により、丹下健三が設計者に選定され、構造設計を坪井善勝、家具設計は剣持勇、共同監理は県建築課がそれぞれ担当。設計期間は1955年1月から6月までで、戦後の民主主義社会到来にふさわしい県庁本館とすることや、県内産資材を活用するという当時の金子正則知事の要求に応えた設計とした。大林組の施工で55年12月に着工、58年5月に完成した。1階ロビーには、猪熊画伯の太陽と月を題材とした壁画「和敬清寂」が制作され、芸術性に富んだ庁舎を形成している。
 ル・コルビュジエの提唱する近代建築5原則を取り込みながら、打放しコンクリートやセンターコア方式、高層棟と低層棟の組み合わせなどを採用。モダニズムと日本の伝統を融合させた意匠は、後に続く建築家に大きな影響を与えた。
1階エントランス。丹下健三の代表作として今も県民から愛され続けている


◇世界的に知られる日本の文化遺産

 当時、6階建て以上ではSRC造が一般的だったが、8階建て以上で日本初となるRC造を採用するなど、最先端の知見と技術を結集。大林組の厳しい品質管理と、丁寧な施工で、日本有数の強度を持つコンクリート庁舎が実現した。
 その建築的価値は高く評価され、60年に創設された第1回のBCS賞を受賞したほか、国際学術組織のDOCOMOMOにより、「日本を代表する文化遺産としての近代建築20選」に選ばれるなど、1950年代を代表する建築として世界的に知られている。
1階ロビーでは猪熊弦一郎画伯の壁画「和敬清寂」が庁舎を彩る


模型などが展示されているギャラリー


◇建築価値などの情報を県民に発信

 文化的価値が高く、築後60年近くが経過しているにもかかわらずコンクリート状態が良好で、劣化はそれほど進行していない。一方、県の防災拠点であるが、現行の耐震基準を満たしておらず、耐震化など南海トラフ巨大地震への対策が喫緊の課題となっている。
 県は、このような課題を踏まえ、学識経験者らで構成する香川県庁舎東館保存耐震化検討会を設置、13年12月と14年1月の2回に分けて議論を行った。
 検討会の会合の中で、委員の松隈洋京都工芸繊維大教授は「丹下作品は東京都庁舎など、相手の顔が見えないコンペで勝ち抜き、設計された作品が多いが、東館は当時の知事や職員、職人との対話の中で生まれた作品だ。今も香川県民の心の中で生き続け、愛されており、丹下作品の中でも最も恵まれた作品」と評価した。このほか委員からは、「耐震化とは、利用者の安心・安全が実感できること」「広く県民に建築価値などの情報を発信すべき」などの意見が出された。
 これらの議論を踏まえ、2月に提出された提言では、基礎免震構法を軸とした耐震化を盛り込んだ。「コストの抑制に留意しつつ、耐震工法などの精査を行うことが求められる」としたほか、「基本計画・基本設計・詳細設計・施工といった将来的な工程に応じ、継続的に有識者からのアドバイスを得ながら、広く県民が情報を共有できるように、情報発信していく必要がある」とする意見を示した。
 県は提言を踏まえ、14年度から耐震化策を検討していく。世界に誇る丹下建築が、その価値を示しながら、今後も使用されていくことになる。
建設通信新聞(見本紙をお送りします!)

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