2012/05/05

国交省BIM初試行のインパクト!「新宿労働総合庁舎」を徹底分析 -3-

現場では基礎工事がスタートしている
「3次元モデルを自在に動かすぐらいのCADスキルは習得したい」と語るのは、新宿労働総合庁舎の建設現場を仕切る東洋建設の松本大石所長。これまで3次元CADに触れた経験はなかったが、社内の勉強会で使い方を学ぶとともに、BIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)の理解も深めてきた。

◇干渉チェック

 施工者に課せられた役割は、BIMモデルから基準階の施工図を作成し、さらに設備の一部分について干渉チェックを行う内容だが、実際に検証するのは建築工事の東洋建設だけで、機械設備担当の大成設備と電気設備担当のタツヲ電気は対象に含まれていない。
 設備の干渉チェック範囲は基準階の天井内部に加え、電気室や設備室に限定されたが、設計のBIMモデルは意匠と構造の一部にとどめているため、施工者は自らの手で設備モデルを仕上げる必要がある。試行では通常の施工図作成プロセスとBIM活用の場合を比較検証するため、分かりやすいように、あえて建築工事に役割を一本化した。

◇設備担当会社の協力も必要

 とはいえ、今回の試行で施工者に要求されているのは、民間プロジェクトで見られるような本格的なBIMではない。あくまでも3次元モデルから一部の2次元施工図を出力するデータ変換の部分に絞られている。設計図面から施工図を作成し、それを総合図へと展開する従来のやり方で工事を行い、施工計画の立案などに3次元データをフル活用するような試みは実施しない。
 松本所長は「現場運営上は図面出力の比較検証が追加されたに過ぎない。逆にBIMによって密度の高い設計が行われたことで、現場合わせの手戻りが従来よりも大幅に軽減する可能性がある」と期待を込める。ただ、設備のBIMモデル作成には「設備担当2社にも協力を仰ぎたい」と考えている。
 東洋建設にとっては、施工段階に試みる初のBIMプロジェクトとなる。瀬谷光俊関東支店建築部長は「試行の成果を検証し、BIMが設計施工一貫プロジェクトに生かせるか否かを見極める」と強調する。工期は2013年2月末まで。松本所長を含め4人体制で挑む。現場事務所用に3次元CADを1台購入、試行への準備も整えた。

◇いかにデータ引継ぐか

 現場では基礎工事がスタートしたものの、実は設計者から施工者に引き継がれるBIMデータの扱いについて、まだ確定していない部分が残っている。契約では設計者はBIMモデルをIFC(Industry Foundation Classes)形式で施工者に渡すことになっているが、その精度については厳密に決めていなかったため、関係者間で覚え書きを交わす必要が生じた。
 設計者が作成したオリジナルデータをそのまま引き継げば、施工者にとっての使い勝手は増すが、オブジェクト情報の設定や2次元図面への出力方法など設計者側の独自ノウハウが詰まっている。これは、工事完了後に施工者が作成したBIMモデルを、発注者側へ引き渡す際にも生じる課題である。
 国内の民間プロジェクトでは、設計から施工まで一気通貫で3次元データをつなぐ本格的なBIM事例が出始めているが、実はゼネコンの設計施工一貫プロジェクトが大半を占めている。そこには単一組織だけでデータ共有を完結できる背景が深く関係していた。

次回につづく

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