2012/05/10

東京電機大の学内設計事務所「D・Aデザイン」 千住新キャンパスで法人化めざす

日清製粉創業事務所の解体実測。
歴史的建築物に触れ、学生にとって貴重な経験となった
 東京電機大学の学内設計事務所「D・Aスペース&テクノロジーデザイン一級建築士事務所(略称=D・Aデザイン)」は、2010年度の設立以来、大学院インターンシップ(就業体験)や設計業務の受託など、学生の教育と実際の設計業務のバランスを取りながら着実に実績を重ねてきた。4月から東京都足立区の東京千住キャンパスに大学の拠点が移ったことを機に、地域との連携にも力を入れている。法人化を見据え、さらなる基盤の充実を目指す。

 大学院への進学を推奨している東京電機大は、大学院生が実務経験を通じて単位を取得できる環境づくりのため、インターンシップを受けられる体制を整える必要があった。
 D・Aデザインの設立目的の一つに、大学としての実務教育充実がある。外部の設計事務所の受け入れ体制が必ずしも十分とはいえない中、学内設計事務所としてインターンシップを受け入れてきた。
 柳秀夫代表は「外部の設計事務所へインターンシップに行くと、実務に近い経験ができるところもあれば、模型製作の手伝いだけで終わることもある。D・Aデザインは実務の片鱗を感じつつ、教育との両方の利点を生かせるように取り組んでいる」と、教育と実務の両輪で進めていることを強調する。
 意匠と構造の2コースがあり、2011年度は延べ41人の大学院生がD・Aデザインで単位を取得した。

◇実務教育と人材育成

 設計事務所として業務の受託は、力を入れなければならないところだ。意匠は木造住宅設計が1、2件、改修1件の実績があり、歴史的建築物である日清製粉の創業事務所(1900年完成、群馬県館林市)の解体実測調査を手掛けたこともある。
 「学生が木造軸組から瓦の割付まで図面に起こし、3次元化するところまで取り組んだ。本物を実測しながらだったため貴重な経験ができ、多くの知識が身に着いた」(柳代表)。同建築は復元を見越して部材などを保管している。
 二瓶光希構造担当代表は「設立当初、構造は新築が2、3件あり、学生とともに取り組んでいた。東日本大震災以降はほとんどが耐震診断となっている」と新築案件が減っている現状を説明した。現在のメーン業務である耐震診断で、学生は1-3次診断のうち主に1次を、慣れるに従い2次診断を手掛けている。
 設計事務所としての受託件数は、設立からの約1年半で12、13件にのぼる(耐震診断業務はまとめて1件と換算)。
 柳代表は「具体的な法規と実際の設計との関係、ディテールやコストなどの実務的なジャンルでさえ、建築教育の中では手つかずになっている。これらの触れられないベーシックな部分が、インターンシップで伝えられればよい」と、実務教育を通じて実務とのギャップをできるだけ埋めることに力点を置く。
 「実務教育とはいえ、きちんとした人材を育てなければならない」(柳代表)ため、就職活動に役立つ自己表現やマナーなど、人格教育の側面も併せ持つ。また、実務での取り組みを通じて「理解している学生とそうでない学生の差が激しい」(二瓶構造担当代表)ことが分かってきたため、その差がどこから生まれるのかを確かめ、教育プロセスにフィードバックすることも考えている。

近隣の小・中・高校の生徒らが作った
千住キャンパス開設記念の
ガラスアート。
D.Aデザインがワークショップの先導役を務めた
◇大学とは独立した事務所

 実務教育の充実、業務受託を通じた社会への研究成果の還元と合わせ、東京千住キャンパスがある足立区との連携も大きな柱の一つとなる。
 キャンパス移転の際の足立区からのバックアップを踏まえ、積田洋建築学科長は「キャンパス計画そのものが地元の交流の場となっている」と、防災拠点としての機能や一部施設の開放など、すでに地域に溶け込み始めたことを強調する。
 また、都市計画のカリキュラムの一環として、足立区のまちづくりとの連携を考えている。D・Aデザインは、まちづくりアイデアの具体化を支援する考えだ。
 D・Aデザインは現在、「大学の管理下にはあるが、独立した事務所」(積田学科長)という位置付け。できるだけ早期の法人化に向けて、形態を模索しているところだ。

『20代で身につけたい プロ建築家になる勉強法』 AmazonLink

Related Posts:

  • 【あすなろ夢建築】グランプリに栗山匠さん(中央工学校) 大阪府福島官舎がテーマ  大阪府と大阪府建築士会、大阪府住宅供給公社は、第25回大阪府公共建築設計コンクール(あすなろ夢建築)の入選者を決めた。グランプリには栗山匠さん(中央工学校OSAKA1年)、準グランプリには車塚千穂さん(同)、優秀作品賞には西岡真樹さん(大阪デザイナー専門学校1年)の作品と、松葉巧さん、山本剛大さん、山田好乃さん(いずれも堺市立堺高校2年)の合作が選ばれた。表彰式は3月29日に大阪市西区の大阪ガスハグミュージアムで開く。  同コンクールは… Read More
  • 【京都工繊大】卒業制作展 審査員賞に獅子島啓太さん「架ける建築ー木密地域再生計画」  京都工芸繊維大学工芸科学部造形工学課程の2016年卒業研究・制作展が18日から21日まで、京都市中京区の京都文化博物館で開かれた=写真。建築コースと意匠(デザイン)コースの合同展で、建築部門57作品、論文部門45作品、意匠部門40作品が展示された。また、大学院の建築設計学専攻第11回修了制作展も同館で開催された。両展とも総合資格学院を運営する総合資格が協賛した。写真は審査員賞の「架ける建築ー木密地域再生計画」。  最終日の21日には、ゲ… Read More
  • 【安藤忠雄】感動を呼ぶものをつくる誇り高い仕事を 淡路夢舞台で同窓会  安藤忠雄氏の代表作の1つである複合リゾート施設「淡路夢舞台」(兵庫県淡路市)の建設にかかわったゼネコンや設備業、造園業、各種メーカー関係者らが年に一度集まる建築技術研修会(安藤忠雄建築研究所主催)が13、14日の2日間にわたって同地で開かれた。  研修会として第15回、同窓会として第16回となる今回は「建設産業界の今後」をテーマにプレセミナーやレクチャーなどを開催し、参加した約320人は旧交を温めた。 13日のレクチャーで安藤氏は、夢舞… Read More
  • 【久留米市】初めての建築工事現場に釘付け! 浮羽工高2年生が日吉小改築を見学  福岡県久留米市が建設を進めている日吉小学校校舎改築工事の現場見学会が19日、建設地の同市日吉町で行われた。参加したのは福岡県立浮羽工業高校建築科の2年生32人(女子4人)と教諭3人。福岡県建設業協会(岩崎成敏会長)の協力で実施した。生徒は職人の作業の様子に足を止めて熱心に見学するなど、初めて見る建築工事現場を実感した=写真。  同工事は既存校舎の老朽化に伴い、グラウンドを活用し新校舎を建設する。規模はRC造4階建て延べ6089㎡。1階に… Read More
  • 【茨城学生建築展】市長賞は日影舘美樹さん(筑波技術大)の「海を眺め未来につなげる幼稚園」  茨城県建築士事務所協会(横須賀満夫会長)が主催し、茨城県建築センター、茨城県建築士会、日本建築家協会関東甲信越支部茨城地域会が協賛する「第2回茨城学生建築展」が笠間の家(笠間市)で開かれ、最終日の21日に表彰式が行われた。県内の建築系の大学など10校35作品の応募があり、笠間市長賞に選ばれた筑波技術大学の日影舘美樹=写真右=さんは設計に際し、「海とともに生活してきた園長の想いとデイサービス施設との融合に配慮した」とコメントした。  表… Read More

0 コメント :

コメントを投稿