2012/05/04

国交省BIM初試行のインパクト!「新宿労働総合庁舎」を徹底分析 -2-

気流シミュレーションで開口部追加を決めた
国土交通省の分析によると、新宿労働総合庁舎の設計業務では「2%」のフロントローディングがあった。BIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)の導入によって、実施設計で行うはずの業務の一部が前工程に移行した。これにより基本設計の業務量は通常の設計に比べ2%増加したことを意味する。

◇下準備では時間増加

 BIMは、設計初期に3次元モデルと属性情報を作り込むため、早い段階から具体の設計検討に着手できる。官庁営繕部整備課施設評価室では「一般的に言われるほど、業務の前倒しは実現していない。初の試行だったこともあり、この部分は今後も詳細に分析していく」と説明する。
 では、全体の作業時間はどうだったか。単純比較すると、試行業務は通常の設計よりも数%の増加となった。3次元モデルを活用する上で、事前にデータ入力の条件設定を決める必要があり、その下準備に時間をとられた。実はその手間が、設計検討の密度を従来よりも大幅に向上させる原動力になった。

◇設計初期にシフト

 発注者側で意匠設計主任調査職員を務めた関東地方整備局の外崎康弘営繕技術専門官は「通常、実施設計で忙しさがピークになるが、今回は設計初期に決めるべきことが多く、その対応に追われた。その後はシームレスに物事が進み、設計者と濃密な打ち合わせができた」と振り返る。
 設計者側の意匠主任技術者も同様の感触を得ていた。梓設計の土井英尚設計室第2統轄部主任は「より早い段階から発注者とイメージを共有できた」と手応えをつかむ。プラン検討にはマスモデルを使い、基本設計では自然採光や自然換気のシミュレーションも行った。3次元データを活用して「設計の根拠を示した」効果は大きかった。
 協議後の変更事項については事務所に持ち帰るケースがほとんどだが、今回は打ち合わせの場でモデルを修正し、合意に至るケースが数多くあった。敷地条件をモデル検証した結果、建物プランは地下2階地上5階から地下1階地上6階に変更。自然換気の性能向上に開口部の追加が決まり、逆に自然光を利用するライトシェルフは効果が薄く、設置を取りやめた。

◇コスト管理にメリット

 梓設計の納品した意匠図面は計56枚に及んだ。このうち22枚はBIMモデルから設計図面として出力した。割合は40%程度だが、図面の種類に換算すれば圧倒的に割合は増す。特記仕様や部分詳細図以外はBIMで作成したからだ。3次元モデルは仕上げ表や法規チェック図、建具表に連動しており、図面に出力した場合もデータの不整合はない。
 試行の検証事項であった積算数量の算出も、高い精度を達成した。対象はコンクリート量に限定したものの、積算基準との誤差はわずか0・52%。「BIMモデルから容易に概算数量を算出できたため、コスト管理がスムーズに進む」(官庁営繕部整備課施設評価室)効果も生まれた。
 試行プロジェクトが施工段階に入り、梓設計は設計意図伝達業務として、自らの設計イメージを施工者に伝える役割を担う。安野芳彦常務設計室長は「意図伝達にこそ、BIMの強みを最大限に生かせる」と考えている。

次回につづく

『ArchiCAD Starter Book -ArchiCADはじめてのBIM設計』 AmazonLink

Related Posts:

  • 10万円を切る3D設計プレゼンソフト。メガソフトが4万点のデータとともにクラウド進出 iPadに映し出されるプレゼンテーションはリアルさを追求した  販売価格10万円を切る実務者向け3次元プレゼンテーションソフトとして支持を得ているメガソフト(大阪市)の「デザイナーPRO」シリーズ。主力の3Dマイホームに加え、オフィスとインテリアの全3種類で構成されている。手軽に3次元のレイアウトができるため、工務店などでは営業担当のユーザーも多い。 ソフトにはメーカー約40社から提供を受け、1万点もの商品の3次元データが収録されている。イ… Read More
  • 3D図面データから現場で墨出し TSで墨出し位置をレーザー照射。新菱冷熱 TSがレーザー照射で、墨出し位置を教える  新菱冷熱工業は1年前から、現場での墨出し作業にスマートモバイルの活用を始めた。設備機器類が干渉しないように図面には厳密な設置場所が決められており、特に大規模工事では墨出しのポイントが多く、量に比例してミスも起こりやすい。中央研究所の酒本晋太郎主査は「作業員1人でも確実に墨出しが行えるツールとして、スマートモバイルの活用に行き着いた」と明かす。  開発した3次元計測・墨出しシステムは、図面データ… Read More
  • 「BIMで設計と教育は変われるのか!」建築学会が大阪でシンポジウム  日本建築学会は17日、大阪市の大阪大学中之島センターでシンポジウム2012「BIMで設計、教育は変わるのか?-BIMとインターネットを活用した設計コンペからみえたこと-」を開いた=写真。ゼネコンや設計事務所、大学の教員・学生が集い、BIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)の活用提案を紹介したほか、普及への課題などを話し合った=写真。  シンポジウムは例年東京で開いているが、BIMを活用して仮想設計コンペを実施する「Build … Read More
  • JIA建築大賞の「ホキ美術館」 日建設計の方々にインタビューしました ホキ美術館 撮影:野田東徳(雁光舎)  日本建築家協会(JIA)の2011年度日本建築大賞に「ホキ美術館」(千葉市緑区)が選ばれた。5日の公開審査では「建築で絵画をうまく包み込んでいる」(審査委員・三宅理一藤女子大教授)などの評価を得ての大賞受賞だ。設計を担当した日建設計の山梨知彦執行役員(設計担当)、中本太郎設計部門設計部長と設計部門設計部の鈴木隆氏、矢野雅規氏にインタビューした。 「設計にあたってどのようなアプローチをしたのですか?… Read More
  • 「吊り戸棚がここに欲しい」住宅設計、施主の要望にすぐ対応。福井コンピュータの「TREND Net 計算倶楽部」  福井コンピュータの提供するアプリケーション『TREND Net 計算倶楽部』は、住宅設計向けの簡易なシミュレーションサービスだ。開発のきっかけは、同社の主力建築CAD「ARCHITREND(アーキトレンド)Z」のユーザーを対象としたセミナーだった。講師役の戸田知治氏(戸田設計代表)が自前の計算ツールを紹介した際に聴講者の反応を見て、建築事業推進室の塩尾知仁室長が「これは、ぜひ商品化したい」と思い立った。  戸田氏は施主の悩みにすぐ応えられ… Read More

0 コメント :

コメントを投稿