気流シミュレーションで開口部追加を決めた |
◇下準備では時間増加
BIMは、設計初期に3次元モデルと属性情報を作り込むため、早い段階から具体の設計検討に着手できる。官庁営繕部整備課施設評価室では「一般的に言われるほど、業務の前倒しは実現していない。初の試行だったこともあり、この部分は今後も詳細に分析していく」と説明する。
では、全体の作業時間はどうだったか。単純比較すると、試行業務は通常の設計よりも数%の増加となった。3次元モデルを活用する上で、事前にデータ入力の条件設定を決める必要があり、その下準備に時間をとられた。実はその手間が、設計検討の密度を従来よりも大幅に向上させる原動力になった。
◇設計初期にシフト
発注者側で意匠設計主任調査職員を務めた関東地方整備局の外崎康弘営繕技術専門官は「通常、実施設計で忙しさがピークになるが、今回は設計初期に決めるべきことが多く、その対応に追われた。その後はシームレスに物事が進み、設計者と濃密な打ち合わせができた」と振り返る。
設計者側の意匠主任技術者も同様の感触を得ていた。梓設計の土井英尚設計室第2統轄部主任は「より早い段階から発注者とイメージを共有できた」と手応えをつかむ。プラン検討にはマスモデルを使い、基本設計では自然採光や自然換気のシミュレーションも行った。3次元データを活用して「設計の根拠を示した」効果は大きかった。
協議後の変更事項については事務所に持ち帰るケースがほとんどだが、今回は打ち合わせの場でモデルを修正し、合意に至るケースが数多くあった。敷地条件をモデル検証した結果、建物プランは地下2階地上5階から地下1階地上6階に変更。自然換気の性能向上に開口部の追加が決まり、逆に自然光を利用するライトシェルフは効果が薄く、設置を取りやめた。
◇コスト管理にメリット
梓設計の納品した意匠図面は計56枚に及んだ。このうち22枚はBIMモデルから設計図面として出力した。割合は40%程度だが、図面の種類に換算すれば圧倒的に割合は増す。特記仕様や部分詳細図以外はBIMで作成したからだ。3次元モデルは仕上げ表や法規チェック図、建具表に連動しており、図面に出力した場合もデータの不整合はない。
試行の検証事項であった積算数量の算出も、高い精度を達成した。対象はコンクリート量に限定したものの、積算基準との誤差はわずか0・52%。「BIMモデルから容易に概算数量を算出できたため、コスト管理がスムーズに進む」(官庁営繕部整備課施設評価室)効果も生まれた。
試行プロジェクトが施工段階に入り、梓設計は設計意図伝達業務として、自らの設計イメージを施工者に伝える役割を担う。安野芳彦常務設計室長は「意図伝達にこそ、BIMの強みを最大限に生かせる」と考えている。
次回につづく
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