鳥瞰やアイレベルでボリュームを検証する |
国土交通省中部地方整備局がBIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)の効果を垣間見たのは2009年度のことだ。「富士法務総合庁舎」の施工者が3次元モデルを使って仕上げ材を提案してきたのが最初だった。
◇地方へ導入
そのころ、同局はICT(情報通信技術)活用を本格化しており、3次元設計を奨励していた。当時、静岡営繕事務所長だった長谷川正彦中部地方整備局営繕部整備課長は「仕上げ材を並べて面で見たときの色彩を確認でき、分かりやすかった」と可視化メリットを直観していた。
それから2年後、「静岡地方法務局藤枝出張所」の設計業務にBIMの活用が盛り込まれた。試行案件に選ばれたことには理由があった。国交省官房官庁営繕部では、試行初弾の新宿労働総合庁舎で大手設計事務所によるBIM活用の手応えをつかんでおり、次の展開を考えていた。地方の同規模庁舎で試行案件を募り、タイミングよく次年度の設計着手を予定していたのが、中部整備局の静岡地方法務局藤枝出張所だった。
◇自力でBIMに挑む中堅事務所
建設地は静岡県藤枝市の住宅街に位置し、3軒の民家と隣接している。そこでBIMによる日影図の作成や建物のボリュームチェックを設計の発注条件に定めた。さらに日影図に時刻や季節などの時間軸を加えることを設計者が提案。西日の入り方やルーバーの効果などの日照チェック、窓からの隣家の見え方を事前に把握することも契約後の協議で決めた。
設計を担当している徳岡設計は、大阪に本社を置く中堅事務所だ。属性情報の入力を含めた本格的なBIMベースの設計はこれが初めてとなるが、配置が義務付けられたBIM担当者には外部の協力事務所を入れず、実績を持つ社員を配置して、あえて自社で挑んでいる。
中川猛夫取締役副所長は「BIM情報の入力を前倒ししているため、基本設計時の手間が増えており、実施設計が終わるまでは何ともいえない」と考えているが、「視覚的な効果により発注者との相互理解は進み、決断が早まっているのは確か」と既に一定の手応えをつかんでいる。
「BIMに入れるべき情報の範囲などを、ツールの進化を踏まえながら見極めていきたい」と、今回の試行業務を機に別の案件でもBIMを積極的に導入する方針だ。
試行業務では、これまでに鳥瞰モデルを作成し、建設可能範囲をブロックプランで立体的に検討したほか、周辺道路の歩行者から見る建物のボリューム感もウオークスルーで確認した。これを1枚の絵にして、入居官署が地元への説明に活用した。
今後は、設計者の提案により、詳細図までBIMベースで入力し、色彩・サインの選定や、建築確認申請「CASBEE静岡」へのデータ抽出にもBIMデータを活用するという。
中部整備局の長谷川整備課長は「仮に工事段階で設計変更を余儀なくされると、建物が入居官署の要望とかけ離れていく可能性がある。BIMの導入により、そのリスクを早い段階で軽減できるだろう」と期待を寄せている。同局では、施工段階での試行も視野に入れている。
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