安井事務所が自主的にBIMを取り入れた海上保安庁海洋情報部庁舎 |
前橋地方合同庁舎の設計業務を担当する安井建築設計事務所は“フルスペック”のBIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)に挑んでいる。設計チーフの村松弘治執行役員東京事務所副所長設計部長は「意匠、構造、設備の3次元モデルを連携させた統合設計にチャレンジする」と、その内容を明かす。
日ごろの設計活動で基本設計業務の9割、実施設計業務の6割強にBIMを導入している同社にとっては、国土交通省の試行プロジェクトを判断材料にして自らの力量を計る狙いもある。前橋地方合同庁舎で試みるBIMは「これまでの集大成であり、次のステップへの足がかりでもある」(村松執行役員)と位置付けている。
民間プロジェクトでBIMデータから詳細図面を切り出している実績があり、今回の意匠設計でもほぼ100%の詳細図を出力する計画だ。基本計画の段階では風環境や温熱、自然通風、採光計画などのあらゆる3次元シミュレーションも取り入れた。意匠設計に並行して構造、設備の3次元設計を進め、各担当者が連携しながらモデルの密度を上げている。
◇ハイレベルのBIM
「前回を超えるハイレベルなBIMを提供することになるだろう」とは中元三郎参与情報プレゼンテーション部長。既に同社は官房官庁営繕部から発注された海上保安庁海洋情報部庁舎(現国土交通省青海総合庁舎)の設計業務で、提案技術としてBIMを自主的に導入しており、実質的には今回が2例目のBIMプロジェクトとなる。
その設計に着手した2008年当時は、社内でBIMの本格導入に踏み出した時期でもあり、設計時に後工程へのデータ連携を厳密に意識する余裕まではなかったが、延べ約2万㎡の規模に積極導入した同社の姿勢は社外に、その実力を印象付けるきっかけになった。中元部長は「前回の経験が下敷きになっており、今回は生産プロセス全体を通してBIMの可能性を追究する」と強調する。
◇設計に基本と実施の境なし
前橋地方合同庁舎の設計作業は、同社のイメージどおりに進み、7月末にも基本設計を完了する見通しだ。
村松執行役員は「設計初期に頭を使うのが、BIMの設計スタイルであり、ディテールを決めながら先に進む流れになり、おのずとフロントローディング(業務の前倒し)が実現している」と手応えを口にする。
社内体制は自らの力量を試す目的もあり、あえて外部の協力事務所は使わず、意匠、構造、設備の各部門から実力者を集めた。設計プロセスの流れを意識し、業務のパターン化を行い、それぞれの役割分担を厳密に定めている。「社内では実施設計のつもりで基本設計に挑んでおり、基本と実施の境はなく、シームレスにデータがつながっている」(村松執行役員)というのが安井流のBIMだ。
関東地方整備局とは、合意が必要なポイントで早い段階から頻繁に打ち合わせを行い、実施設計レベルの業務についても前倒しして確認している状況だ。初試行の新宿労働総合庁舎での経験もあり、「BIMの設計スタイルに馴れてきた」と発注者側も感触をつかんでいる。
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