山梨県のリニア実験線 |
◇自己負担で建設
超電導リニアの研究が始まったのは、東京オリンピック以前の1962年のことだという。ちょうど50年目の今日、具現化への取り組みが大きく動き出しているわけだ。
「このプロジェクトには縁が深い」と言うように、25年前のJR東海発足当初からリニア中央新幹線構想に携わってきた。「当時はまだ、宮崎の実験線しかなく、実用化にはほど遠いレベルだったが、その後も技術開発や地形・地質の調査を念入りに重ねてきた」と振り返る。
長年積み上げてきた各種データに加え、営業線への転用を視野に入れた山梨リニア実験線の存在が、実現性を飛躍的に高めた。いまや超電導リニアは、「日本固有の世界に誇る技術」として確立され、世界からも注目される具体的なプロジェクトへと成長した。「事業を担当できて本当に幸せだ」と喜びを感じる一方で、その重責に気が抜けない日々が続く。
リニア中央新幹線の建設に当たっては、国家財源の問題が大きな障壁となっていた。「2007年12月、当社は一つの意思決定をした。東海道新幹線の将来の経年劣化や大規模災害に対する抜本的な備えとして、国の財源に頼るのではなく、自己負担による建設を前提に、必要な手続きを進めることを決めた。常に東海道新幹線に磨きをかけ、順調な経営を続けてきたことが、結果的にリニア中央新幹線計画推進の原動力となった」
◇14年度着工へ
トップを務める中央新幹線推進本部はハード、ソフト両面の社内セクションを一元化し、11年7月に設置した。企画調整、技術開発、建設の大きく3部門に分かれ、計約500人の社員が所属。調査、設計、工事などの発注業務もすべて同本部が手掛ける。一大事業に従事しているだけに、「社員一人ひとりの士気は非常に高い」という。
現在は主に、環境アセスメントの手続きを進めており、「猛禽類の営巣期調査などの現地調査を完了させ、来年の夏には準備書をまとめる」見通しだ。その段階には、詳細なルートや駅位置が明確になる。その後、地域住民や自治体、国などの意見を反映した上で、評価書を固める。「14年度の着工を目標に、環境アセスメント終了後、工事実施計画の申請を行いたい」考えだ。
施工時においては、「いかにコストを縮減しながら、円滑に工事を進めていくかが、われわれに課せられた使命だ」と話す。ゼネコンなど施工者側には、「低コストで、迅速に施工できる技術力を発揮してもらいたい」と期待する。また、「リニア中央新幹線特有の高精度な土木技術も求められるため、各社腕を競い合い、日本が誇る高度な技術を結集してほしい」と呼び掛ける。
◇大深度地下も活用
大都市部では、40mより深い大深度地下を活用することになるが、「例えば、品川~相模原間だけでも約40㌔ある。類例のない建設プロジェクトになるだろう」との見方を示す。さらに、「最大土被りが1400mに上る南アルプスをトンネルで貫くというのは、かつてないことだが、長い期間に及ぶ調査の結果、十分完工できると確信している」と語る。
リニア中央新幹線は時速500㌔で走行し、東京~大阪を67分で結ぶ。中間駅も含めた総建設費は約9兆円。第一段階として進める東京~名古屋間の開業目標は27年、大阪開業は45年を目指す。
着工はまだ2年ほど先になるが、「システムを何重にも構築し、安全な走行、停止という鉄道の大原則を死守する」との決意は揺るがない。
* * (うの・まもる)1978年東大工学部卒後、国鉄入社。以来、“土木屋"として鉄道建設に携わってきた。87年JR東海入社、広報部長、新幹線鉄道事業本部施設部長などを歴任し、2010年東海道新幹線21世紀対策本部長、組織変更に伴い11年7月から現職。趣味はアウトドア全般で、体を動かすことが好きという。登山のキャリアもあり、「機会があれば、南アルプスにも登ってみたい」と話す。同社ラグビー部長も務める。横浜市出身、57歳。
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