2012/05/26

大阪士会の渡辺節賞を受賞 SPACESPACEの『Dアパートメント』

Dアパートメント(CASA小次郎)の外観(撮影:鳥村鋼一)
 『Dアパートメント(CASA小治郎)』で大阪府建築士会の渡辺節賞を受賞したSPACESPACEの香川貴範氏と岸上純子氏。香川氏は「関西では珍しく“居心地の良さ"などといったあいまいなポイントでなく、論を立てて建築を作ることを評価していただいた。大変うれしく思う」と話す。

 Dアパートメント(S造3階建て延べ228㎡)は、駅前の密集地に建つ単身用賃貸集合住宅。約2m幅の細長い住戸を折り曲げ、建物中心には中庭と階段を配した。俯瞰(ふかん)すれば「D」に見える。1戸当たり2×16mと一方向に長い居室は一部を折り曲げることで、壁を設けなくてもプライバシーが守られる空間を作り出している。

内観(撮影:鳥村鋼一)
◇住戸のバリエーションが課題

 香川氏は「こういった集合住宅は不動産として流通するので、『南向き』『バルコニー付き』『角部屋』『水廻りセパレート』などといった不動産的なチェック項目を満たしつつ、周辺環境と住戸の形から出来る住戸のバリエーションを作り出すことに苦労した」と振り返る。
 「建築においてこれまで扱われてこなかった課題を解き、それによって周辺の都市にもいい影響を与える」のがSPACESPACEのポリシー。「建売住宅や商品化された住宅には何かしら理にかなわない部分がある。そういった問題を解決する方法を常に考えている」(香川氏)という。建築主には思いつく限りのプランを提示する。「少しでもいい案を出したいという一心でやっている。事務所としてはあまりもうからない方法だが」と香川氏は笑う。
 提示するプランには必ず周辺環境に好影響を与えるための手法を考えて盛り込む。「周囲に悪い影響を与える建築は良くない。敷地の中だけでなく視野を広げなければいけない」とこだわりを見せる。

香川貴範氏(左)と岸上純子氏
◇坂倉事務所の出身

 「常に新しいものを追い求めつつも、環境をよく理解し、その土地ならではの地域性が表れるものを造っていきたい」と香川氏。「今まで誰もやっていない、建築の概念を変えるようなものに挑戦したい」という岸上氏とはプライベートでもパートナーだ。
 ともに坂倉建築研究所出身だが、香川氏が退所した年に岸上氏が入所したため、そこで一緒に仕事した期間は短い。「社外コンペに参加する際に(香川氏に)誘ってもらった。学生時代に課題に対して感覚的な評価しか得ることが出来ず悶々(もんもん)としていたが、彼と出会って、形やプランの可能性について議論するようになり、学生時代との次元の違いを感じた」(岸上氏)という。「建築設計の基本は学べることができた」と坂倉事務所を退所した香川氏は、個人事務所を設立。4年後に岸上氏と入籍し、事務所に迎え入れた。
 来月には男児を出産予定という。「将来は建築家に」との問いに「本人が望むなら」とほほ笑む。
 (かがわ・たかのり) 2000年東工大大学院修了後、同年坂倉建築研究所入所。06年に退所し個人事務所「SPACESPACE」設立。摂南大や京都造形芸術大、神戸芸術工科大などで非常勤講師を務める。大阪府出身、37歳。
 (きしがみ・じゅんこ) 06年神大大学院修了後、同年坂倉建築研究所入所。10年に退所し、SPACESPACE入所。大阪工業技術専門学校や大阪市大で講師を務める。大阪府出身、33歳。

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