基本設計段階の庁舎マスモデル |
◇工事着手に「反響と戸惑い」
試行の初弾プロジェクトに指定された新宿労働総合庁舎の建築工事を2011年11月7日に落札した東洋建設は、数日後に“重圧”を感じることになった。打ち合わせに出向いた際、国交省の強い意気込みに触れ、その責任の重さを痛感したからだ。瀬谷光俊関東支店建築部長は「社内には反響とともに、戸惑いも広がった」と明かす。
民間プロジェクトでは、設計段階で施主へのプレゼンテーションに3次元データを使っていたが、施工段階の活用経験はなく、同社にとっても初めて挑むBIMプロジェクトであった。受注後すぐに勉強会を立ち上げ、導入の下準備を進めてきた。
同業他社には本格導入する動きが広がりつつあり、社内では今後どこまでBIMに本腰を入れて取り組むべきか、その判断に迷っていた。同社は試行プロジェクトを判断材料に「今後の導入方針を見極める」(瀬谷部長)との方針を決め、のしかかった重圧を自らの目標に置き換える。東京都新宿区の建設地では基礎工事が始まり、5月末からは躯体工事に着手する予定だ。
◇本格的トライアル
設計業務がプロポーザル案件として公示された10年6月当時、梓設計では所員へのBIM推進を加速した時期とも重なり、「試行プロジェクトの獲得は社内の意識を高めるチャンス」(安野芳彦常務設計室長)ととらえていた。民間建築の基本設計段階では3次元データの活用機会が増えていたが、実施設計まで一気通貫で取り組んだケースはなかった。
同社がBIM導入に乗り出したのは06年。市販の3次元ツールを徐々に増やしながら、誰もが自由に使えるように環境整備を進めてきた。あえて推進役のチームは置かず、所員の自発的な普及を前提にし、それをフォローする人材育成に力を注いできた。
安野常務は「当時は基本設計への導入が拡大していたとはいえ、使い方は施主とのコミュニケーションの手段にとどまっていた。まだBIMの特性を十分に生かし切れていない」と感じていた。10年10月から設計に着手した新宿労働総合庁舎は、まさに同社にとっての本格的なBIMのトライアルプロジェクトとなった。
◇従来にないリアリティー
庁舎はRC造地下1階地上6階建て延べ約3450㎡。国の事務庁舎としては標準的な規模となり、従来の2次元設計とBIMの3次元設計を比較検証するには最適の案件だった。当初、試行範囲は意匠設計と構造設計の一般図、躯体数量概算に定めていたが、梓設計がプロポーザルで提案した設備系系統図の部分も3次元設計の対象に追加された。
実施設計が完了したのは、ことし2月。関東地方整備局営繕部整備課の才木潤課長は「仕事の進め方とともに、その風景が大きく変わった」との印象を強く持った。毎週の打ち合わせでは、設計者がCADを自在に操作しながら、大型スクリーンに検証部分の3次元モデルを映し出した。そこには2次元図面から空間をイメージするような従来の議論では味わえない“リアリティー”があった。「おのずと議論は活発になり、検討の深みは増した。より早い段階から設計者と意識を共有できた」(才木課長)。発注者がBIMを肌で感じた瞬間であった。
次回につづく
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