唐破風屋根のトントン葺き |
江戸時代中期には山鹿町絵図にその存在が記載されている「さくら湯」。明治初期の大改修工事で、東西の大屋根と南北の棟で構成する十字型の基本骨格が完成した。改修、増築を繰り返しながら、長く市民の憩いの場として大切に使われてきた。しかし、1971年の大火を機に市街地再開発の議論が浮上し、73年に建物は解体された。
今回の工事では、外観は解体直前の73年時、内部は明治期の面影を残す58年時に再生する。大きな特徴をなす唐破風や十字屋根など当時の姿を忠実に再現し、柱も基本的に同じ位置に据える。
町の中心で工事が進む |
環・設計工房の鮎川透代表は「現行法規とのせめぎ合い」と設計の苦労を語る。建築基準法による規制に融通性を持たせるため、木造2階建てで延べ床面積を1000㎡以下としたものの、構造計算により、「どうしても部材が太くなり、金具で柱を基礎に緊結する必要があった」。また、許容応力計算の全体の構造性能を担保するために、約900カ所に及ぶ木造交差部ごとにチェックを行った。
一方、「貯水槽や近隣に対する消火設備などを設置したことで、熊本県が準防火地域の指定解除を英断してくれた」ため、野地板や垂木を木質化するなど外観の印象を変えずに復元することが可能となった。
内部の長方形の浴場なども、残された写真に基づき再生するが、公衆衛生法、ハートビル法に対応するため、洗い場や手すりを設置したほか、階段形状の変更なども余儀なくされている。
昔の部材も活用している |
着工は昨年7月。使用する木材は、スギを地元から、ヒノキも熊本県内から調達し、全体で約900m3に及んだ。棟梁として伝統工法を支える職人をまとめる野中建設の田中朝広さんは、社寺建築を数多く経験したことから「基本は分かっており、技術的な不安はなかった。しっかりと段取りすることが肝心。一番重要な墨付けも常に先を考えながら進めた」と振り返る。「これまで経験させてもらったことの恩返しの気持ちで取り組んでいる」と、工事に携われることに感謝する。
建築JV代表の野中誠二野中建設社長は「市民の記憶に残っているだけに、姿が見えるに連れて関心も高まってきた」と言う。「われわれがきっちりと造り上げる。後は市民でどう活用していくか議論し、建物の価値を高めてほしい」と期待を寄せる。
◇市民も積極参加
2月には、大勢の市民が見守る中で上棟式を開き、4月には子どもたちも参加して土壁塗りのワークショップを行った。唐破風の玄関庇の屋根は曲線になじむように約1000枚のスギ板を使って「トントン葺き」で瓦を葺く。そのスギ板の半分約500枚には、市民がそれぞれの思いを寄せ書きした。10月には「湯の町山鹿の歴史と文化を代表する顔」として再生を果たす。新たな「さくら湯」は、その姿とともに、工事現場の様子も市民の記憶に残っていくだろう。
建設地は山鹿市山鹿1-1。設備工事は機械を城北工業・東総合設備・城設備JV、電気を相互電気設備・黒田電気設備JVが担当している。
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