「私は建築を信じている」。冒頭に書かれた言葉に、著者たちが積み上げてきた建築への思いが表れている。建物を設計するだけでなく、人とふれ合い、対話し続けてきたからこそ理解できる境地ではないだろうか。建築に小難しい解説や理論は必要ない。最低限の説明とエピソードのみで、読者は住まう人々の生活に思いをはせることができる。
小児がんの子どもが家族と一緒に過ごせる家を送るプロジェクト「チャイルド・ケモ・ハウス」(2013年)や人を受け入れるというテーマで深い軒を周囲に巡らせた「軒の協会-東八幡キリスト教会-」(14年)など、建築はあくまで人が生活するためのものということを再認識させられる。
「人は建築の向こうに何を見るのか?」。著者からの巻末の問いかけである。その答えは、本書を読み終えた後、読者の心に自然に導かれる。
09年以降に手がけた住宅や教育・医療施設などを網羅し、現在進行中の作品を含めた51点を収録している。建築に携わる人間のみならず、住生活を考える上で必読の1冊だ。
(TOTO出版・2700円+税)
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