世界文化遺産に登録された富士山の5合目で、八千代エンジニヤリングが厳しい環境基準をクリアして整備した日本最大級の山岳トイレが、ハイレベルなクリーン度と木調の美しい内装デザインなどで利用者から高い評価を受けている。既存の浄化槽に大規模な自己処理システムを加えたハイブリッド式技術は、世界的に見てもトップクラスにあり、海外への展開にも強い期待が寄せられている。世界遺産を陰から支える環境技術として、建設業界の新たな社会貢献としても注目される。
同社が設計・調査を担当した富士山五合目トイレ改修工事(発注者は山梨県と山梨県道路公社)は、世界文化遺産登録の約1年前の2012年に完成した。場所は、富士スバルライン五合目の吉田口ルート(山梨県)にあり、標高2305m。最も利用者が多い登山ルートになる。世界遺産登録から年々利用者が増えて、ことしもピーク時には1日1万人を超える登山者でにぎわった。
循環水を使っての水洗だが、そのクリーン度は山岳トイレとは思えないレベルとなっている。内装は木調で、日本らしさを強調している。国内の登山者を始め、かなりの比率を占める外国人登山者からも、その環境技術のレベルに驚きと同時に高い評価を受けている。中国など海外からの視察も多いという。改修に際しては、国立公園内であるため、環境省を中心として、発注者と設計者らが過酷な気象条件下での最適な処理方式を徹底的に議論した。
1日3000人の処理能力を持つ既存浄化槽を生かし、その処理量を上回る汚水処理を新設の自己処理システム「オゾン+活性炭処理」で浄化し、ハイレベルなクリーン度の循環水を確保できる水処理方式を選択した。
既存浄化槽と新たな自己処理システムのハイブリッドトイレとしたことで、1日最大で1万5000人(日量138m3)を処理することができ、山岳トイレでは最大級の規模となる。
自己処理システムは第2駐車場の地下に埋設し、1日当たり55m3の処理施設を2系統設置したため、大規模な工事となった。
内装は山岳トイレとは思えない木調の美しいデザイン |
安藤正敏総合事業本部建築部副部長は「処理方式を中心としたコストパフォーマンスの調査・計画に始まって、山開き前までのタイトな工程管理、美しい内装デザインの設計、そして完成後の運営モニタリングなど、世界のトップレベルを目指して、海外には絶対にまねのできないものをつくるという気持ちで臨んだ」と話す。
富士山では、6合目、7合目、8合目で気象条件が変わるが、資機材の搬入などでも生コンクリートをヘリコプターを使って運べるかどうかなど、まったく違った対応を加味する必要が出てくる。5合目ではそのベースとなる技術が蓄積できたと話す。
また、安藤氏は「 今回蓄積できた日本の山岳トイレの技術を国内はもちろん、海外へも展開できれば」と意欲的だ。
出水重光代表取締役副社長は「世界文化遺産登録の陰で、必要不可欠で当たり前のように使われる公共トイレについて、厳しい環境基準をクリアして、こうした技術やシステムを開発したことはあまり知られていない。建設業界における新たな社会貢献ではないかと考えている。これからも積極的に展開をしていきたい」と力を込める。
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