2012/10/15

建設論評・「現場用語を間違えない」

先ごろ、文化庁が発表した2011年度「国語に関する世論調査」によれば、「うがった見方をする」「にやける」「失笑する」の意味を、本来と違う意味でとらえている回答が多かった。 「うがった見方をする」は、本来の意味である「物事の本質をとらえた見方をする」は26・4%で、違う意味の「疑って掛かるような見方をする」が48・2%。「にやける」は、本来の意味の「なよなよとしていること」は14・7%で、「薄笑いを浮かべている」が76・5%。「失笑する」は、本来の意味の「こらえきれず吹き出して笑う」が27・7%で、「笑いも出ないくらいにあきれる」は60・4%であった。
 これらの言葉では、半数以上の人々が、お互いに意味を取り違えてコミュニケーションをしているわけで、実際に多くの場面で言葉の行き違いによる支障が生じているに違いない。
 建設現場でも、毎日多くの言葉を交わして仕事を進めているが、特に労働安全では、指示する者とされる者とでの意味の取り違えは、労働災害につながる恐れがある。
 労働安全衛生法(安衛法令)などでは、誤解を生じる用語が多い。
 安衛法令の多くの条文は「事業者は…しなくてはならない」と主語が事業者である。建設現場でこの事業者に該当するものは下請契約の最先端次事業者のことで、多くの措置義務がその事業者にかかわってくる。ところが事業者とは、すべて元請けの責任と思っている者があり、逆に元請けの中には、請負関係から下請けに責任を押しつけてくると聞く。
 メッシュシートと建築工事用垂直ネット、そして防網と安全ネット、違いは何だろうか。前者は垂直に張り外側構面からの物の落下防止、後者は水平に張って物や人の落下防止が基本で、それぞれに構造、性能が違う。ほかにグリーンネット、水平ネット、単にネットなど、日常的に使われる用語に間違いはないか。
 多くの現場で目にする安全通路と作業通路の違いは何か。安衛法令は「安全な通路」「通路」としての規定はあるが作業通路はない。必要なら違いを明確にしないと混乱する。
 職長は現場で重要な役割だが法的地位がない。では、作業主任者と作業指揮者の違いは何か。誘導者と合図者、監視人、特別教育と技能講習、免許はどうか。これらの用語には明確な法規定があり、違いを理解し順守することだ。
 架台・足場などでは類似の名称があり、可搬式作業台(商品名としては「たちうま」「のびうま」など)、高所作業台、移動式室内足場(同セーフティーベース、マルチステージ、テンダイなど)、移動式足場(ローリングタワー)といったものがある。
 現場で使う言葉は、作業者全員に共通の事象が認識できるよう、まず定義を明確にし、違いを確認して使うことだ。
 現場で使う言葉は、意味を間違えて失笑を買う事態があってはならない。 (傘)
建設通信新聞(見本紙をお送りします!) 2012年10月15日 10面

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