2013/04/02

【建築】設計各社にポイントを聞く! 歌舞伎座・歌舞伎座タワー完成

生まれ変わった歌舞伎の殿堂「歌舞伎座」が新開場を迎え、2日から、こけら落とし公演が開かれる。今回で第五期開場となる歌舞伎座は、新たに賃貸オフィスビル「歌舞伎座タワー」を併設しながら、第四期歌舞伎座の意匠をそのままに再現している。
 設計・監理を担当した三菱地所設計、隈研吾建築都市設計事務所と、施工を担当した清水建設にポイントを聞いた。


舞台下手より客席
◇第四期のイメージと音響を継承
 三菱地所設計 大澤秀雄氏


 当社は、建築設計を隈研吾建築都市設計事務所とともに行い、構造・設備・造園・音響等の設計、都市計画協議、歴史調査ならびに全体統括を担当しました。与えられた命題は、第四期歌舞伎座のイメージやホール音響の良さをそのまま継承しつつ劇場機能を向上させること、地下鉄コンコースに直結した地下広場や歌舞伎をはじめとする日本の伝統を伝える文化施設を整備すること、そして高品質なオフィスタワーを併設することでした。
 当社は今までも歴史的建造物の保存や復元など歴史を継承する数々のプロジェクトに携わってきました。今回はその経験を生かして第四期歌舞伎座の徹底的な調査分析を行い、設計思想や意匠上の特徴、ホールの音響特性、ロビーから楽屋・裏方の使われ方に至るまで把握し、受け継ぐべきものと改善すべきものを明らかにした上で第五期の設計に反映させました。そして、劇場舞台上部に高層オフィスを土木的スケールの大架構によって重ねるという画期的な方法を採用することによって、第四期で多くの人々に親しまれた正面前庭から大間を経て客席・舞台に至る空間構成を踏襲することが可能となり、さらに舞台・客席・ロビー・楽屋等の各エリアを拡張し機能性を高めることができました。
 一方、オフィスタワーは1フロア500坪の大変眺望のよい基準階プレートが実現されており、昭和通り側のエントランスから地上30mのスカイロビーを介して各階に導く計画となっております。歌舞伎座・歌舞伎座タワーは、わが国の世界に誇る伝統芸術「歌舞伎」の殿堂=歌舞伎座を中心とした複合施設として、今や世界トップレベルに位置するわが国の先進技術を結集して創り上げた、いわば「和魂和才」の結晶といえるでしょう。


舞台後方から見た廻り舞台
◇木造建築の軽やかなディテール表現
 隈研吾建築都市設計事務所 横尾実氏


 約60年の間、歌舞伎ファンに親しまれ、都市空間をハレの場へと変容させてきた「第四期歌舞伎座の継承」が大きなテーマでした。
 新しい歌舞伎座では、大きな庇が張り出したオープンスペースをコーナーに設け、劇場のにぎわいが都市へ溢れ出るようにしました。そして、そのにぎわいが都市の奥深くまで流れていくように、正面の瓦屋根や白壁等の、歌舞伎座を構成する特徴的な意匠を側面に連続させました。
 細部においては、高層ビルとの複合化と、耐震化のために鉄骨造としたことで、コンクリートを流し込んでつくられた第四期とは異なる、本来の木造建築が持つ軽やかなディテール表現が可能となりました。
 劇場内部においては、現代人の体格にあわせて客席サイズの拡幅や、客席勾配の変更を行いました。それによって、客席の天井が2.5m高くなり、劇場内の気積や天井勾配が変わりました。評判の良かった第四期の音響と同等以上の質を確保するために、コンピュータや1/10模型で音響シミュレーションを行い、第四期と同じヴォールトのついた吹寄竿縁天井の一部を、GRGパネルを用いて3次曲面化しました。
 歌舞伎座の舞台上部には、メガトラスで支えられた23層のオフィスフロアが積層されています。その外壁面は、歌舞伎座の背景となるように大きく後退させ、屏風のような陰影をつくる捻子連子格子をモチーフとしたデザインとしました。
 第四期歌舞伎座の継承は、単にその姿を復元することではなく、第四期歌舞伎座が担ってきた祝祭性を、現代の高密化した都市環境において、そして多様化した高度情報社会において、更新する作業でもありました。

劇場1階ロビー
◇施工のポイント 巨大メガトラスの上に超高層構築
 清水建設所長 水田保雄氏


 第四期歌舞伎座が60年の歴史を経過し閉場した年に還暦を迎えた水田保雄建設所長は、現場の指揮を任された当時を、「天命だと思い、現場経験を集大成して臨んだ」と振り返る。
 工事の最大のテーマは、第四期のままに建物を再現すること。「伝統技術と最先端技術を融合しなければ成し得なかった」と、水田所長。
 唐破風の飾り金物や、劇場のプロセニアムアーチの枠材、廻り舞台を囲む松材など、第四期の部材は、極力保存し再使用した。
 瓦葺き屋根は、第四期ではRC造土葺き(湿式)だったが、新たにS造乾式を採用。微妙な勾配を再現するため、大工の棟梁が引いた図面をデジタル化して鉄骨工場に送り、カーブをつけた大梁を製作。現場では3次元計測で正確な位置を出し取り付けた。その上に「三州瓦」約10万枚を屋根勾配に合わせ1枚ずつ設置した。
 劇場の舞台には、直径約18m、第四期の4倍となる深さ約16.5mの廻り舞台を構築。舞台機構は、大掛かりとなるため、工場製作し一度分解して搬入した。床材には、着工当時から探し求め2年乾燥させた「百年檜」約1200本を使用した。
 奈落の底からブドウ棚まで32mという劇場の大空間の上に、超高層ビルを載せるため、高さ13m、長さ51m、総重量約1600tの「メガトラス」を構築し、日々変位を計測した。
 5階内部と屋上庭園の通称「スマートファクトリー」で部材をユニット化した上で揚重し、高所作業を軽減、高層部は1フロア6日のサイクルを実現した。その間の搬入に正面玄関を使うため、最も神経を使う唐破風の作業は工期終盤となったが、2層の構台で繊細かつ迅速に進めた。
 内装は、PC・GRC・アルミや、塗装・木調シートなど、現行法令に合わせた不燃材料を使い、木材を使った四期の雰囲気を再現した。
 延べ労働時間315万時間に及ぶ全工期を通じて、安全管理スローガンの復唱と実行による「念仏と完結」を徹底、所長自ら日々高層階まで足を運び、社員とサブコンを伴った週1回の「総合パトロール」を実行、全作業員が所長と同じ目で声をかけ合った結果、無事故・無災害を達成した。
 竣工を迎え、水田所長は「皆さまのおかげだ。お客さまに『四期のままだ』と評価され、道行く人が写真に収めるのを見て、感無量だ」と喜びを語る。

やぐら(劇場正面)
◇建物概要
▽建物名称=GINZA KABUKIZA
(歌舞伎座・歌舞伎座タワー)
▽建設地=東京都中央区銀座4-12-15
▽建築主=株式会社歌舞伎座、KSビルキャピタル特定目的会社
▽設計・監理=株式会社三菱地所設計、隈研吾建築都市設計事務所
▽施工=清水建設株式会社
▽用途=事務所、劇場、店舗、駐車場
▽敷地面積=6995.85㎡
▽建築面積=5985.20㎡
▽延床面積=9万4097.40㎡
▽構造規模=SRC(地下)・S(地上)地下4階地上29階建て塔屋2層
▽最高高さ=145.50m
▽屋根仕様=アスファルト断熱防水コンクリート押え(陸屋根)、瓦葺き(勾配屋根)
▽外壁仕様=PC版フッ素樹脂塗装、アルミカーテンウオール、GRCほか
▽工期=2010年10月-13年2月
建設通信新聞(見本紙をお送りします!)2013年4月2日

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